茶一郎

パラダイス・ナウの茶一郎のレビュー・感想・評価

パラダイス・ナウ(2005年製作の映画)
3.7
「パラダイスなう」

 いわゆるパレスチナ問題。パレスチナに住み、常にイスラエル占領に不満を感じている若者の自爆テロを題材にした作品。
……と、一言で『自爆テロを題材』と言ってしまうと大変語弊があり、今作が異質なのは、『自爆テロをする側の視点』、自爆テロに志願した若者の任務遂行までの48時間を描いた作品ということだった。

 とても不謹慎ながら、『自爆テロをする』となると、それはいつ自分の体に巻き付いた爆弾のスイッチを入れるか・入れないか、いつ死ぬか・生きるか分からない究極のサスペンスになる。
自爆テロをする側は、加害者であり、被害者。その対立する二つの立場が一人の人間に同居するサスペンス性、そして、もちろんその究極の自爆テロミッションは(映画だから)すんなり成功するわけがなく……
結果、重々しいテーマながら、娯楽としても面白く仕上がった、自爆テロサスペンス映画だった。
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 とてもお緊張感のある舞台のはずなのに、妙に間抜けで作業的に見えるテログループは何なのだろうか。主人公は、今から神の教えのために命を捨てようとしているのに。
 
 『自爆テロをする人ってどういう人たちなんだろう?』と何気なく抱く疑問。
この映画の主人公は、国のため、宗教のため、家族のため、という大仰な理由で自爆テロを志願するのではなかった。あくまで普通の青年。若者なら誰しもあるような『破壊衝動』『承認欲求』が、自爆テロの『自爆したら死後、英雄になれる』という性質にたまたま合った結果、彼らを、命をかけた破壊行動に向かわせたように見える。
自爆テロをする人間に光を当てた結果、彼の思いが浮き彫りになる、今作が単なる自爆テロを扱った映画ではないということだ。

タイトルの『パラダイス・ナウ』これは『パラダイスなう』ではなく『パラダイス と ナウ』ということだろう。ラストに映るのは、これまた同居するはずのない、『天国』と『今』だった。

『 地獄の中で生きるより、頭の中の天国の方がマシだ 』
茶一郎

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