ニトー

好きだ、のニトーのネタバレレビュー・内容・結末

好きだ、(2005年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

見ようによっては「害虫」の続編じゃないですかねこれ。というより、ティーンの宮崎あおいの醸し出すあの筆舌に尽くしがたい存在感からこっちが勝手に読み取ってしまうのかも。とはいえ、姉の事故を間接的にとはいえ引き起こしたのユウだと考えるとやっぱり「害虫」じゃないかと。

それにしてもディスコミュニケーションな映画である。
基本的にはユウとヨースケの二人の話として完結している。にもかかわらず、コミュニケーションが絶妙に成立していない。というより、ディスコミュニケーションが成立してしまっているというべきだろうか。
二人のディスコミュニケーションの仲立ちとしての存在がユウの姉なのだろう。ほとんどそれを発生させる装置あるいは機能そのものとすらいえるのではないかとすら思える。

ユウと姉との掛け合いは、それ自体が少ない上にどこか説明的。姉の過去の出来事によるところがあるのかもしれないが、むしろ話題の中身(きっかけ)がヨースケを中心としているところにある。

その上、ヨースケにしてもユウにしても二人の会話の話題はほとんどがユウの姉を経由している。
二人の(ディス)コミュニケーションは明らかに空転しており、その間を埋めるように都度都度に渡って空模様がインサートされる。しかも、全体的に暗い色調でありながらも空模様は実に多様。それが直接的に心象風景を表しているとは思わないが、それでも何かを読み取ってしまう。

基本的に二人のやりとりは土手で交わされる。常にその背後には空が横たわっており、もどかしく「空」々しいユウの(自己)欺瞞の下に潜む本音を白日の下に晒してくれる。学校での二人のやりとりが土手のそれよりも遥かに明らかに白けているのはそこに空がないからだ(もっとも、真に二人が向き合い、まさに太陽に向かっていくのはエンドロールの映像でなのだけれど)。かように、空は本作における重要な意味を成す。

とはいえ、空疎な姉との会話に比べてユウがヨースケと話してる時は生き生きとしたエチュード的な趣さえあるわけで、だからこそ彼女の言葉・ヨースケに対する自己欺瞞による思いやりが痛切に伝わってくる。

それに対して高校時代のヨースケはそんな空疎なユウの姉に対して好意を持っている(17年後の彼のセリフから考えるとこれはブラフでむしろ彼すらもユウの姉を媒介していたのではないかとすら思えるのだけれど)。

理由は分からない。単に色気づいてきた(17歳でそれは遅いけど)思春期男子が年上の女性に憧れているだけなのか、ヨースケの中に潜むある種の空っぽさを空疎な彼女に見出していたのか。
ユウの姉は空疎であるがゆえに何でも受け入れてしまうのだから、そこに何かを勘違いしてしまうのも無理からぬ話ではあるのだけれど。ユウに言われたからって普通は行かないだろうし、ユウの(ヨースケの)鼻歌に対する言動も浮薄だ。まあそれは隙を見せたユウが悪いのかもしれないけど(笑)。
まあ、だからユウも姉を介してしかヨースケと意思疎通できないのだろう。
ことほどさように、それぞれの人物がそれぞれと向き合うことができないていない。
それは不自然なほど正面からだけで完結するしっかりとしたショットがほぼないことにも通じる。それっぽいバストショットがあっても、極めて照明の少ない(というか使ってない?)部屋だったり、どこかかぶいた姿勢だったり半身だったりする。
それこそ、意図せずに本質に直面した(させられた)のはヨースケがエロ本買った時くらいじゃなかろうか。そこからの匂いのくだり。

姉を介してしか(まあ匂いのくだりも姉なんだけど)接することができなかったユウに、ヨースケの本質に向き合いきることはできなかった。

それから姉の事故があり、二人がやりとりをすることが亡くなって17年が経過する。さもありなん。

この後半パートでは主観が交代する。高校時代では観客はユウの立場から世界を見る。17年後ではヨースケの立場からになる。それはモノローグからも明らかで、ことことに至ってようやく双方の矢印を把握するわけでござんす。

だからこそ、二人の一人称を通過してようやくあのエンドロールに至る、という流れは綺麗に収まるところに収まったといえる。まあ西島秀俊が刺されたときは「やっぱり害虫じゃねえか!」と思ったりもしたんですけど。にしても、17年後のユウに永作博美をキャスティングしたのは我が意を得たり。以前から宮崎あおいと永作博美は雰囲気とか笑い方とか似てると思ってたので、それが勘違いじゃないということが認識できたよかった。虎美のくだりはいらないっていうか、ヨースケも事故の方が因果応報というか因果を回収した感じでそっちの方が収まりも良いしくどさも目減りしたと思うんだけど。まあ無粋か、それは。

あと最後にタイトル持ってきてもいいと思うんですけどね、これ。ついでにタイトルに含まれる句点はたぶん藤岡弘、のそれと同じ。

キャストの妙と編集(あと照明とか)のおかげで妙なリアリズム持ってるけれど、現実はこんなロマンティックな展開はありえないので好きな人にはちゃんと好きと伝えましょう。
ニトー

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