ニトー

鶏の墳丘のニトーのネタバレレビュー・内容・結末

鶏の墳丘(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

思ってたのとだいぶ違った。少なくともルックはもっとソフト(それこそレッド・タートルみたいな)なものを想像してたんですけど、ちょっとエッジがききすぎていやしないだろうか。ハードコアすぎるでしょこれ。

上映後のトークでシー・チェン監督はCGクリエイターとしては我流でそういう意味で熟達しているわけではないといったようなことが言われてたのだが、それがゆえであるのかどうかはわからないものの、そのシンプルなテクスチャの質感や基調となる色彩の設計などはどこかユートピア的な静謐さや優しさを醸し出していて、そういう意味ではソフトではあるのかもしれない。無論、そこには反語としてのディストピアがあるわけだけれど。

まあ、この映画を無理やり(と言いつつも監督の中では一応決めてはあるのだろうが)ジャンルとして括るのであればSFであろうから、私の感じたソフトなユートピア感も遠からずといったところなのではないだろうか。

「人造人間ハカイダー」やら伊藤計劃の「ハーモニー(文庫版)」の印象を自分が強く抱いているから(特に後者)、あるいはそれ以前からの「白さ」の持つ欺瞞(「白々しい」)といったこれまでの創作物の反復によるパブロフ・ダァッグな半ば反射に近い反応でもあるのかもしれないが。

シー・チェンが中国ルーツであるということを考えると、どうしても「赤」に対する「白」を連想してしまうのは無理からぬ話ではあるまいか。


と、こんなことを書き連ねておきながらちゃぶ台を返すようだが、そんなものはほとんど後付けで、実際に観賞中はもっと酩酊したような感覚に陥っていたと素直に認めるほかにありますまい。

上映後のトークでは中国当局の検閲を回避するために物語を細分化(というか裁断)しまくったとか、そういう話をしていた。もし検閲を考えなかったとしたらどうなっていたのかはわからないけれど、少なくとも今回上映されたこの映画にはおよそ物語と呼べるような分かりやすさはない。と言っていいだろう。

スクリーンに映し出されるのはひたすら記号的な……というよりむしろ純粋な記号そのものの連なりだ。その意味において、これは一周回って物語を必要とするものではない原アニメーション的(そういう意味でもイメージフォーラムでやりそうなアニメではある)ですらある。

物語はない・記号の羅列とは書いたものの、明らかにメタファーとして描かれている描写が多々ある。侵略戦争include兵器、スマホによる(ディス)コミュニケーション、生殖、工業製品(特にフィギュアっぽいアレ。そもそもがメカ娘っぽいんだけど)…etc。どこか間の抜けた、ビデオゲーム的な(CGという映像手法も含め)SEのサウンドデザインもそうだろう。ていうか弾幕ゲーみたいなシーンあるし。

物語はない。んが、一方で映像にはしっかりと(こちらが汲み取れきれなかったものも含め)意味がある。いや、意味しかないというべきだろうか。

けれど、メタファーがメタファーとして立ち現れてくるよりも先に、記号としての記号性が強烈に機能するがゆえにメタファーによってもたらされる「意味」を無化してさえいる。それでも観客はそこにメタファーの残滓を汲み取り、なにがしかの意味を見出そうとする。

それは上映後トークの言葉を借りて「裁断された物語」の例えと使うと、一度シュレッダーにかけられた文書の紙片を集めて文章を再構成して読み取るような(「アルゴ」~)徒労感を観客にもたらす。観た後の疲労感は徹夜明けだとか二本目だからという以外にもあるはずだ。

そして、いかにもCGであることがもたらすゲーム的な箱庭的世界観、一つ一つのオブジェクトの情報の少なさ(作りこまれていないという意味ではなく)は、それが強烈な記号であるがゆえに現実ほどの情報量を持たないにもかかわらず現実世界を映し取る。もちろん完全に再現された電脳空間ではなく、現実世界から変数を減らされた仮想空間でしかない。この映画は、なんというかVRチャットをやっているときのような、あの形容しがたいノスタルジーにも似た既視感・寂寥感と通じる。

CGではない(まあ画面に現出した時点でデジタル化されてるんだけど)ドローイングの絵画がむしろ映像上ではマテリアルとしての異質さを帯びるのは、奇妙に思いつつそこに僅かなよすがというか取り付く島を見出して安堵する。

ぶっちゃけ、これは映画館で観ないと絶対に通して観る気にならないと思う。ずっと向き合い続けるにはあまりにも無間地獄めいていて、「映画を観る」という行動のみに制約される劇場という空間でないと中々キツいものがある。タルコフスキーとかああいうのともまた違うし。そういう意味ではやはり劇場で腰を据えて観るのがベストなのではないだろうか。
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