ひでやん

崖のひでやんのレビュー・感想・評価

(1955年製作の映画)
3.7
悪党がたどる悲劇。

原題はペテン、詐欺を意味するが、邦題は死のイメージが強い。サスペンスドラマで登場する断崖絶壁を想像したのだが、思っていた崖と違った。

司祭の服着て善人を騙し、金を巻き上げるペテン師3人組。そのひとりピカソの妻を演じるジュリエッタ・マシーナが登場した瞬間、もう可哀想。夫の悪事を知らずに、帰ってきた夫に笑顔を見せる妻を見ていると心が痛い。妻子を見るピカソも、久しぶりに娘と会ったオーギュストも心が痛むはずだ。家族に会えば罪悪感が邪魔で、詐欺をするには家族が邪魔。

真面目に働かなければと思いつつ、ラクして儲けることばかり。純真な人々を欺き、欲深い心が自分さえも欺くので邪心に負ける良心。ガヤガヤとした街の賑わいにどこか儚さを感じ、男たちの背にそこはかとなく哀愁が漂う。情感溢れるニーノ・ロータの音楽が素晴らしい。

悪の心がぐらりと揺れても善人にはなれず、文字通りの転落…。彼の声が届き、救いの手があったとしても、喉元過ぎれば何とやらだろう。
ひでやん

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