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アパートの鍵貸しますのろのレビュー・感想・評価

アパートの鍵貸します(1960年製作の映画)
5.0

「目を覚ませ。“メンシュ”になれ。」
「何です?」
「“人間”だよ。」

保険会社の平社員、バドは猛スピードでカードをめくりながら、電話を取った。
「はい、ご予約承ります。木曜日の19時からですね。鍵はカーペットの下にありますよ。」
部屋の鍵は、課長から課長へ。
彼のアパートは、上司の密かな楽しみのために使われていた。

眠っていても、お構いなし。
風邪を引いても、お構いなし。
バドはぶつぶつと悪態を吐きながら、寒夜のベンチで眠る。
それでも彼は鍵を貸し続ける。

社内のクリスマスパーティ。
机をくっつけてフレンチカンカンを踊り、クラッカーは飛び交い、いたるところでキスをしている。
けれどエレベーターガールのフランは浮かない顔。
「どうかな?若手重役っぽい?変じゃない?」
晴れて昇進したバドは、憧れの彼女を前に、帽子を被って見せる。
「これで見てみたらどう?」
差し出されたコンパクトを開くと鏡が割れている。
あの課長が帰った後、部屋に落ちていたものだった。

当たり障りなく過ごしてきたバドは、出世すること、そして上司のご機嫌取りから卒業する。
「僕は、“メンシュ”になります。」
そう啖呵を切り、課長の部屋を飛び出した。

いつもの壁際で、今日は王冠を被り、蛍の光を歌う。
新年まであと・・・。
カウントダウンが始まり、レストランは上ずった声でいっぱいになる。
「バドは相変わらずなのね」うふふと笑うフラン。次の瞬間、彼女の表情はパッと変わる。
「ハッピーニューイヤー!」
新年の訪れと共に、フランの恋は過去のものとなった。

なんて清々しいんだろう、なんて晴れやかなんだろう。
何度見ても褪せない、全く褪せない。
むしろ観ていないうちに進化している。観るたびに面白くなっている。
そういう映画の魔法って、絶対にあるんだよ。

(2019年12月9日 BSプレミアムシネマ鑑賞)
※再レビュー



前回鑑賞したのは昨年の8月。
6ヶ月経った今、また違う視点で観ることが出来ました。「ああ、この半年いろんなことがあったもんなぁ」としみじみ。セリフの一言一言に心動かされました。

人を利用し 自分の身を守ることしか考えていない重役たち、その一方で好きな人に誠意を持って尽くすバドと純粋に恋をするフラン。その対比が皮肉っぽく、しかし上品に描かれています。

「なぜ人は人を愛するのかしら?」
哲学っぽいことも可愛く言えちゃうフラン。
「医者の言う通り、"メンシュ" になります」
自分が手にした地位や権力よりも信念を貫いたバド。
この人達はなんて誠実なんだろう、なんて爽快なんだろう。本当に良いラストで自然と笑顔になれました。

観るたびに見え方が違って 深く味わうことが出来る。それが映画の楽しみだと思います。また今度観るときには違う場面に惹かれるのかなぁ。何度も観たい作品です。

(2016年2月22日 BS鑑賞)
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