あーや

イジー・トルンカ監督短編集のあーやのネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

Jiří Trnka の遺作「RUKA(手)」のみ記します。
イジー・トルンカの作品を何作か見ましたが、これは観たことを記録に残さないといけない作品。
世界で初めてチェコのアニメーション作家としてカンヌ映画祭で金賞を受賞し、チェコアニメの世界を切り開いた彼がチェコのアニメーション作家として何を最後に残したのか。彼の作風らしくはない本作ですが、ここではっきりと描いています。
ナチス時代を生き抜き、共産主義時代にも自分で描きたいことを描けない抑制力を感じながらも数々のアニメーションを作り続けてきたトルンカ。
その時代その時代の権力者が許す範囲のものを最高のクオリティと持って生まれた感性で創ってきた優等生のような人が、最後に創ったのはとんでもない作品でした。
20分間のコマ撮りアニメで台詞もなく(!)共産主義をぶった斬る。彼のこれまでの作品にはありえなかった「実物の手」を出演させて。
その結果この作品はトルンカの死後暫くの間、発禁処分になったそうです。

自分の作りたいものを時代に関係なく作り続けているヤン・シュヴァンクマイエルは、上記のことからトルンカのことを嫌っているそうです。
でも「手」では、トルンカも一人のアーティストとして独創的な作品を創りたかった、そして彼にはその実力とセンスが十二分にあった、が、生まれた時代のために彼にはできなかった、、その他言葉にできない想いが20分間でグサグサささってくるんです。
幻想的な世界を美しく丁寧に描くトルンカの作品をいくつか観てきましたが、自然と涙がこぼれたのは今のところこの作品だけです。
最後の最後に情熱が溢れたのでしょうか。誰かの支配下で作品を作るのではない、いちアーティストとしてのトルンカの情熱がとくとくと刻み込まれた名作でした。たった一本ですが、熱が残っています。
トルンカのことやチェコのことをまったく知らない父親も観た後は圧倒されて動けなくなっていました。
トルンカ・・。優雅で繊細な作品ばかりしか知らなかったけど、天才的なセンスと血の通った革命魂を持つアニメーション作家です。
あーや

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