茶一郎

武蔵野夫人の茶一郎のレビュー・感想・評価

武蔵野夫人(1951年製作の映画)
4.0
 「戦前」と「戦後」その境界線上、混濁した文化と風俗にまみれた世界で生きる男女のメロドラマ。「溝口的スタイル」と呼ばれる、引き画と長回しによる生み出される奥行きのある画面と自然の美しさ、これを3Dで見たら失神するのではないかと思う。

 今作では雨が二回降る。絶対に許されない愛情が女に生まれた瞬間、その雨は突然だが静かに降り始め、その愛が一線を超えると、突然の雨は豪雨となり男女に降り注いだ。この雨を始めとし、この映画はメタファーが充満した美しい映画的世界であった。

 戦前の厳格な風俗を象徴する頑固な父・母が死ぬと、その死を待っていたように浮ついた戦後風俗の時代が到来。父から財産を相続したヒロイン道子は、戦後の価値観を引き継いだ「戦前風俗」の象徴であり、一方、一夫多妻制に疑問を持つフランス文学の学者のヒロインの夫は新しい「戦後風俗」の象徴。そんな古い時代に取り残されたまま新しい世界を生きなければならないヒロインの元に、新しい自由を求めた1人の若者が訪れた。
 ここから始まる、メタファー・イン・メタファーな男女の許されざる恋愛。今までの厳しい戦前風俗の反動で荒れに荒れる風俗、それに最後の反抗を見せるかのごとくひっそりと輝く武蔵野の自然。この美しい武蔵野の地で繰り広げられる「恋愛が自由だ」と言う男と「道徳こそ自由だ」と言う女の恋愛は、「戦後の価値観」と「戦前の価値観」の正面衝突に見えた。
 戦前と戦後、その文化の過渡を、一組の男女の恋愛で見せる濃密な一本。
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茶一郎

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