もものけ

地獄のモーテルのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

地獄のモーテル(1980年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

田舎町でモーテルを経営するヴィンセント兄妹の自慢のベーコンは大好評。
バイク事故で意識を失ったテリーは、目が覚めるとモーテルで介抱されていたが、夫は既に死んで埋められたと告げられる。
しかし、そのモーテルには恐ろしい秘密があるのだった…。





感想。
B級ホラー映画黄金期のスプラッター・カニバリズム作品。
プロットは鬼才トビー・フーパー監督「悪魔のいけにえ」や「悪魔の沼」のまんまで、低予算ありがちなやっつけ脚本ですが、これまたキャスティングの良さとゴア描写で興行収入1位にもなっている怪作。

このシリアルキラーでもあるヴィンセントおじいちゃんは、旅行者達を罠で待ち受けて連れ去りますが、日々独創性を磨いて様々な罠への職人的感性を豪語する異常者という設定が素敵。
単調的にならない殺人鬼との追いかけっこを上手く表現し、畑で人間を栽培するという病的な描写も相まって、個性的な殺人鬼キャラクターを演出しております。

人間性を完璧に失っている清々しいまでの狂いっぷり。
他人への共感が完全に欠如しており、彼らにとっては仕事でしかない"人間栽培"のおぞましさが全面に押し出されております。
殺すために追いかけっこをするスプラッター映画の中で、捕獲してから首だけを出して埋め、声帯を切って声を出せないようにした、身も凍るような残酷描写で観客を怖がらせる手法が見事です。
ここに完璧に狂った世界を歩くヴィンセント兄妹の視点をとるので、観客は逃げ場を失ってひたすら恐ろしい世界を見続けさせられる演出となっていて、まさに観客までもが首だけを出して埋められてただ見ているだけしかできない傍観者に仕立て上げる秀逸な演出。

異彩を放つのは、囚われの身のはずのヒロインであるテリーの視点では、ごく平穏に暮らしていることです。
大抵のホラー映画であれば、このヒロインがいかに脱出するかを見せ場とする手法をとりますが、この作品では美味しそうにベーコンまで食べて歓談します。
ここにはアメリカ農村部での"信仰"というまやかしを皮肉った演出が込められております。
"神の思し召し"という表現で、辛いことも楽しいこともごちゃまぜに仕立て上げ、洗脳するかのように納得させてしまいます。
これは豚肉に人肉を混ぜる"秘伝のスパイス"にも掛けてあり、ブラックジョークが冴えております。
モーテルのテレビには、常に怪しげな宗教番組が流れているのも注目。
ヴィンセント視点とテリー視点で、恐怖と平穏が交互に入れ代わり、ホラー映画なのかコメディ映画なのか感覚を麻痺させて、突然襲い来るホラー演出をより効果的にしている手法でございます。
不穏な空気がありながらも、信じ続けているテリーが象徴的です。

被写体に近接したカメラ構図なので、撮影テクニックの良さは伺えないチープな絵柄ですが、フィルムの質感が素晴らしい。
暗いシーンでも暗過ぎず、太陽光のシーンでも明る過ぎず、発色のよいトーンがバランスよく配色されていて、この時代のホラー映画の上質な雰囲気が保たれております。
霧を炊いた栽培園の照明効果も幻想的であるほど。
そして音楽も臨場感を煽る効果的な良さを持っています。

冷静になって見れば無茶苦茶なストーリーですが、これはコメディ・ホラー映画です。
この無茶苦茶さに人間の愛や嫉妬を交えてドラマティックに演出していますが、テリーを眠らせるシーンから展開がガラッと変わります。
そして弟であるブルースが兄ヴィンセントと姉アイダの秘密を知らない為に、サスペンス要素も盛り込んできます。

徹底的な悪女。
妹アイダは、醜く太っている典型的な見た目通りの醜悪さ。
これは見た目が人格や社会から阻害されるレッテルを貼られる特徴を表しております。
対して、美形ヒロインのテリーや、エロティックなスタイル抜群の犠牲者達。
この対比構図を用いて、より悪女っぷりを演出しております。

しかし、この兄妹は町の人々の需要に答えているだけの"善人"?なのです。
これが"信仰"と結びつき、教育水準や情報の少ないローカルに蔓延る、迷信がもたらす害悪が作品の核にあります。
これら登場人物のキャラクター設定が、非常によく練り込まれておる点も素晴らしい。

後半まで引っ張りに引っ張った"秘伝のレシピ"である人体解体ショーは、まさにスプラッター映画。
ゴア描写はあえてソフトにしているのでショッキングではありませんが。
そしてこちらも登場させるだけで引っ張りに引っ張った犠牲者達が、いよいよ逃げ出します。
この犠牲者達がまた、ゾンビのように歩く様に思わず笑いが込み上げてくる、ホラー映画ファンの心理をくすぐる演出がなんとも。
脚本と演出のうまさが素晴らしい。

豚さんマスクのヴィンセントとチェーンソーのチャンバラ。
テリーに迫りくるスライサー。
掻き立てられるエンジン音と、テリーの絶叫がまさにクライマックス!素敵です。

そしてまさかのダメダメなブルースがヒーローになるオチが意外。
さらに、最後に人間性を見せるヴィンセントが告解をする一言。
"私は偽善者だ…肉に混ぜていた…防腐剤を。"
そっちかよー!のツッコミと共にお腹がよじれます(笑)
ある意味、完全に狂っております。

そして看板の”MOTEL HELLO”は、”MOTEL HELL”になるのでした。

評価は低いですが、個人的には傑作だと思えるホラー映画に、5点を付けさせていただきました!!

私は好きです、誰がなんと言おうと、ベーコンが。

スティングレイのリマスター版Blu-rayでの鑑賞ですが、やはりスティングレイさんの監修は映像の質が素晴らしい。
どんどん名作をリマスター版にして欲しいものです。
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