もものけ

ザ・ボーイ 鹿になった少年のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

町はずれのモーテルを経営する父親の元で暮らすテッドは、出ていった母親を想いながら暮らす退屈な日々。
あることから、次第に"死"へ興味が惹かれてゆくのだった…。





環境が子供の成長へと影響を与えるというのがよく分かる、静かに淡々と進むストーリーなのですが、雰囲気だけで先の展開がどうなるのか引き込まれてしまう不思議な作品であります。
これは、主人公ともいえる少年を演じるジャレッド・ブリーズの不気味さを醸し出した表情の演技が支えているように感じました。
とても愛くるしい顔立ちの利発そうな少年なのに、瞳の奥底に暗く淀んだ何かを秘めた演技は、キャスティングが完璧なくらいハマり役となっております。

父親のベテラン俳優デヴィッド・モースの、落ちぶれた駄目な男を表情のみで演じる姿も素晴らしい。
「12モンキーズ」で注目した役者ですが、味があって個人的に好きな役者の一人でもあるので、それだけでも作品を盛り立てていると思うほど。

モーテルでの二人の生活がどうなるのか引き込まれて、謎の男の登場と訪れる一家など、次第に増えてゆく物語の展開。
しかし、雰囲気ホラーという手法なのか、大きな展開もなく淡々と進んでゆくので、飽きてしまう人も多いかと思います。
個人的には、この駄目な父親と息子の関係性に目を見張る展開で、5号室の客と駆け落ちした母親に落胆した父親は、息子に同じ目を向けている辺りへの展開が、なかなか人間性を描いております。
この父親は、後半に向けて全てにおいて、テッドのなんの助けにもなっていない点に注目です。

ホラー映画というジャンルに宣伝されているので、この少年が刃物を持って血みどろのゴア描写で見せてくれるのではという、ホラーを求めた客層の期待に反して、全く雰囲気だけで突き進んでおりますが、後半の驚愕してしまうシーンはプロムパーティーの若者に暴力を受けて、か弱い少年がいたぶられる目を覆うほどの暴力シーンが凄まじいです。
父親、2号室の男、プロムの若者それぞれが内包した暴力性が描かれており、むしろ少年は社会の犠牲者のようで哀しくもある強烈な鬱シーンでした。
これが生活環境が人格形成に影響を与えるという具現化したシーンなのではないでしょうか。

キチンと伏線回収もあり、動物の死体から罠にハメて殺し、火葬するという一連の段階を伏線として進めて、ラストの"鹿になった少年"が、ゾッとさせる展開へと向かうのは、小動物から人間へ段階を踏んで進むシリアルキラーの様相を呈する展開で、身の毛もよだつホラー映画を雰囲気だけで見事に表現しております。

興味深いのは、"人は焼かれる"と説明もなく聞かされたり、タバコを吸う2号室の男からマッチを貰ったりと、この少年が進む道を大人からの"影響"に導かれていることです。
この作品は、"死"への興味を募らせて狂気へ走ってゆく少年の物語ではなく、子供というのは大人からの"影響"によって変わるということを表しているホラー映画です。

そして、まさかこんな少年がと言わんばかりに、ラストも伏線回収をしっかりとしており、妻殺しの容疑を掛けられた2号室の男が放火をした惨劇であるという
オチで、狂気を内包してしまった少年がフロリダへ行くことを示唆するエンディングで終わる恐ろしいシーンで幕を降ろしてゾッとさせてくれます。

雰囲気ホラー映画としては、とても良く出来ており、役者も良かった考えさせられた作品へ、4点を付けさせていただきました!

おそらく、ジャレッド・ブリーズはマコーレー・カルキンと同じ運命を辿ってしまう子役にも見えますが、その演技は期待させられる原石とも言えるかもしれません。
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