もものけ

性本能と原爆戦のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

性本能と原爆戦(1962年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

早朝から家族でピクニックへ出かけようとするボールドウィン一家は、道すがら来た方角ロサンゼルスが閃光に包まれるのを目撃する。
それは、人々のパニックを誘発する恐ろしい出来事の始まりに過ぎなかった…。






感想。
終末感漂うカルト・ホラー映画「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」よりも前に製作された、核戦争によるパニックと終末世界を、家族を守るために奔走する父親の視点を通して描く作品で、現代劇ではスタンダードになりつつある、終末世界サバイバルと人間性をありありと表現している初期の映画でしょうか。
全く知らなかった作品ですが、このたびリリースされ興味本位で鑑賞した怪作。

まだロケーション撮影が少ない時代に、スタジオ撮影とはめ込み映像を使った古い手法の作品で、ヴァイオレンスや表現は控えめでありながらも、人間性の怖さがひしひしと伝わる出来事を、生き延びようとする家族の父親の視点で演出しており、SFを駆使したド派手なアクション・スリラー作品でなても上手く表現しています。

控えめでチープな演出ではあるので、善良な主人公一家が人間性をむき出しにした悪漢らに騙され、身包みを剥がされて"アメリカの正義はどこにある!"と落胆する内容かと思いきや、この父親は生き延びるためには手段を選ばずに、タカる店主を殴り倒して、銃で武装しながら迫りくる相手に立ち向かうというスタイルで、映像もさながら西部劇のような構図を盛り込んでいて、評価が低い作品の割にはリアルさが面白いです。

銃による武装で撃退する表現は、現代では問題視されている"アメリカ憲法修正第2条"を行使する、善良な市民の姿として、この時代で描かれている点も注目です。
作品では自衛の手段としての"銃"であることの矛盾した姿を演出しているのも面白いです。

「性本能と原爆戦」という謎のタイトルは、"エログロ路線"で映画製作していた新東宝が配給して付けたからとあり、意味不明で扇情的なだけの邦題ですので、本編とは全く関係のないものでした。

低予算なので脚本に都合の良い安易な展開などは見られますが、人間性をむき出しにした暴力の世界はうまく表現されていて、復讐の為に引き金を引く姿で、殺人の正当性を表現しつつも人間性の怖さをも描いております。

往くべきか留まるべきかで対立する人間同士や、トラブルからいかざろうえないプロットなどは、後のゾンビ映画の王道とされる手法になりますが、この作品からの影響なのでしょうか、非常に似通っていてゾンビが人間になった驚異の違いとしてしか感じられないほど。
ラストシーンは秩序が取り戻されつつある世界を、息子の命が助かるかは分からずとも希望を持たせたエンディングで締めくくっており、その辺はゾンビ映画の終末論的オチではありませんが、それなりに良かったです。

割と西部劇チックでありながらも、ソフトなドギツイ展開も盛り込んだ怪作に、3点を付けさせていただきました。
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