もものけ

梅切らぬバカのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

梅切らぬバカ(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

梅の枝が私道まで張り出す狭い道の先へ引っ越してきた一家は、隣の敷地に住むヘンテコな親子に悩まされる。
その親子は、地域で問題視されており、一家はある出来事から巻き込まれてゆくのだった。





感想。
場面毎を切り取ったコミカルな演出で、淡々と日々を綴る作品なので面白可笑しく鑑賞できますが、作品の本質は非常に重く、高齢による介護者への将来の問題を切実に訴えかける内容でして、周囲の理解がないと見守るすらままならない精神障害者への偏見を盛り込んだ、社会派のドラマとなっております。

この"自閉症スペクトラム障害"は映画「キューブ」で登場するのが有名ですが、自立支援が必要なこと以外は、変わり者程度のごく普通の人です。
しかし、音への過敏な反応や限定的な行動に固執して、阻害されると極度に不安になるなどの行動が、奇異に見えることから社会適応能力がないと周囲から迫害されやすい問題をはらんでいます。
その反面"サヴァン症候群"などの才能を秘めていることもあり、病状の程度などで重篤な精神障害と相反する非常に理解されずらい病であり、作品でも周囲の暮らしとぶつかり問題児として扱われる姿が、リアルに描かれております。

この"自閉症スペクトラム障害"の特徴的な行動を、塚地武雅が素晴らしい演技力で表現しているのが作品の魅力であります。

人は平穏を乱されると不安になり、攻撃的にもなります。
自治会や乗馬クラブなどの住人から非難を浴びながら、主人公の親子は頭を下げて生活しているのが印象的です。
しかし、このごく普通の人々の行動が、脳神経の機能障害でコントロールできないだけの"自閉症スペクトラム障害"と全く同じなのが面白い描き方です。
決められたサークルを繰り返すことを好む"自閉症スペクトラム障害"は、平穏な毎日を好む普通の人々となんら変わりはありません。
ただ、自制のコントロールができない障害を患っているので、病的に見えるかも知れませんが、置き換えて考えると同じことなんですね。
これを脚本でうまく表現して、どちら側の視点から鑑賞していても、考えさせられる作品としているのは面白い点でございます。

やや強引に感動を呼ぼうとするようなシーンは、今どきの邦画のよろしくない面ではありますが、塚地武雅の説得力がある演技で、この問題をテーマに訴えかけるには充分に足りるほど、他人と生活のできない切実さが演技から分かるほど。

今まで理解されずに奇妙な人物として描かれていた"チュウサン"が、ラストシーンで名乗り合いながら乾杯をするシーンが、唯一ごく普通の人として表現された良い場面であり、病を患っているとはいえ中身は"人間"である尊厳を感じさせられました。
これが作品におけるテーマなのではないでしょうか。
人への尊厳を大事にして、うまく関わりあいながら生活してゆくことが、平穏な日常そのものと言ってるように感じました。

しんみりする訳でもなく、悲劇的なストーリーでもない、日常のありふれたのんびりした物語へ、とても重いテーマを分かりやすく表現した作品へ、4点を付けさせていただきました!
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