もものけ

ハウス・オブ・トゥモローのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

ハウス・オブ・トゥモロー(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

エコロジー化学を推奨する祖母の影響で、「ハウス・オブ・トゥモロー」を共同経営する孫のセバスチャンは、ツアーの最中倒れた祖母を看病してくれた来客一家と知り合う。
息子のジャレッドと、少しずつ育む友情の中で、セバスチャンは何かが変わってゆくことを感じるのだった…。





感想。
まさに青春映画。
そしてパンクロック。
大人たちに不満をぶつける若者達をシュールな笑いと、良質の音楽で奏でる青春パンク・コメディ・ドラマ。

世間を知らない青年と、世間に不満しかない青年という対比的な関係性が、唯一の共通点になるパンクロックを通して、互いの世間へ対する感情を訴えかけるプロットですが、音楽活動がメインではなく、2つの家族の背景を入り混ぜて、複雑な家族関係と生きづらさをドラマティックに描いております。

面白いのは互いの共通点が、違いこそあれ統合されてゆく描き方です。
怒りしかないジャレッドと、怒りより疑問が湧き上がるセバスチャンですが、互いに表現する手段が分からない思春期であります。
両親を航空機事故で失った孤独なセバスチャンと、離婚で失ったジャレッド。
エコロジー思想の啓蒙信仰に産まれたセバスチャンと、キリスト教信仰に産まれたジャレッド。
平和的で穏やかな生活を強いられるセバスチャンと、心臓移植から激しい活動が制約されるジャレッド。
パンクロックしか聴かないジャレッドと、クラシックしか聴かないセバスチャンなどなど。
対極に居るような二人なのですが、よくよく見ると共通点だらけ。
これらが物語の進行と共に、二人の絆として丁寧に描かれてゆきます。
そしてエセ信仰宗教のようなエコロジー思想に洗脳されたセバスチャンが、
"現実と戦っても何も変えられません、常識を変えるには、新しい常識を創るのです"
という創始者の言葉からアイデアを引き出す真逆の発想が、対極にいながらもアイデア次第では上手くゆくことであるという面白さを表現していて、笑みが溢れるシーンでありました。

地味な見た目のエイサ・バターフィールドと、アレックス・ウルフの二人の演技力が支えになって、ドラマ性を非常によく盛り立てているのも面白い。
エレン・バースティンとニック・オファーマン二人の役者も味のある演技で、観いていて飽きさせません。

パンクロックも良いのですが、80年代調のシンセサイザー音楽が挿入曲として使われており、メロディアスなサウンドが青春映画として効果的に演出されております。

クソッタレな社会へメッセージをというパンクロックを、青春ドラマで見事に表現しきった作品であります。
教会から楽器を盗んでパンクロックし、アル中の母親から酒を盗んでギグをする。
おとなしい表現でありますが、これがパンクなのです。
この笑わせようとするのではない、シュールな表現こそがパンクロックといえるのではないでしょうか。
モヒカンでヘンテコな出で立ち、上手くはない演奏、がなり立てるシャウトとノイズサウンド、パンクロック好きではないと滑稽で笑えるかもしれませんが、本人はいたって本気、笑わせようなんて少しも考えておりません。

ラストシーンに、バッキーを信仰する祖母が父親も反抗的だったと語るシーンが、なぜか胸が熱くなるシーンでした。
そして、平和的なイメージを植え付けていたバッキーは、体制に逆らうパンクだったという締めくくりに、視点を変えて物事を見る感覚の大事さを感じさせ、アナーキーであるパンクは実は平和的なメッセージを訴えかける反体制の象徴でもあるということです。
バッキーをパンクと啓蒙したセバスチャンに、つられて微笑ましくニヤけてしまうのでした。

生きてゆくことに希望を感じさせられる作品へ、4点を付けさせていただきました!
もものけ

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