もものけ

レリック ー遺物ーのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

レリック ー遺物ー(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

田舎の一軒家に一人暮らしをする母親エドナが居なくなったと警察から連絡を受け、サムは娘のケイを伴って母親の家を訪れる。
人の住む気配が失われたかのような家には、不気味な黒いシミが一面にあるが、サムとケイは消息不明のエドナを待つ為に留まることになる。
あっさりと帰ってきたエドナは、認知症の疑いがあれど元気な姿にサムは一安心するが、それは何かに取り憑かれたエドナとの恐怖の生活の始まりに過ぎなかった…。





感想。
襲い来る怪物がいるわけでもなく、地味に演出され比喩的表現満載の為か、割と評価が分かれる日系人女性監督ナタリー・エリカ・ジェームスの長編デビュー作品であるホラー映画です。

映像センスが芸術的で、幻想的なシーンを不安感煽る音楽と表現により、ホラー映画としては一級品にしたてあげておりますが、何が起きているかエンディングまで観客へ委ねる手法ゆえに、理解に苦しむ意見が多い作品でもあります。
主観的表現で描いているので、説明は一切なくただただ進行してゆくストーリーに、投げ出されてしまってついてゆけない感覚を感じるのではないでしょうか。
キャストの演技力が唯一の支えでもあり、登場人物の背景も曖昧になっているので、関係性が伝わらずに感情移入しずらくも感じるのではないでしょうか。

それもそのはず、この作品のプロットは"老い"であり、核は"認知症"をホラー映画として描いているので、老いてない者には理解が出来ないリアルさを観客へ投げかける手法を用いて、その恐怖と困惑を表現している芸術的な作品なのです。

そして、"家族"が抱える病気の問題としての深い闇を、三世代の女性をメインに謎の曽祖父の存在を匂わせながらも、"認知症"という孤独と理解してもらえないキツさが、非常にリアルに描かれております。

ストーリー事態には広がりがないので、訪れた一軒家での親子三世代の関係性を、ニュアンスのみで描いているので、解釈への広がりは少ないかもしれません。
しかし、その衝撃的ともいえるラストシーンは、三世代の親子が連なるベッドで引き継がれてゆく"認知症"の遺伝と、その問題へ永遠に一族として対峙してゆかなくてはならない、恐ろしい運命を物語るかのように、中身が別人と成り果てて朽ちてゆくエドナの背に、発症が始まったサムの黒ずむ肌を見つけたケイが、運命を悟ったかのように立ち去らずに並び添い寝するという、身も凍るオチで全てを表現している素晴らしいエンディングでありました。

全ての人間へ訪れる"老い"。
そして、一族に受け継がれる負の遺産である"認知症"。
この2つをホラー映画として訴えかけるテーマにしたのは秀逸。

ご近所さんである一家にダウン症の青年が登場してきますが、これも遺伝という比喩的表現です。
そして、自分とは違う劣等遺伝へ差別的な感覚へなりやすくなる人間性を描いてもいます。

個人的な解釈ですが、この一家は女系の三世代であり、エドナに憑依した"悪"の象徴として曽祖父の存在がありますが、種を植え付ける男という存在が遺伝によって恐ろしい病を持ち込んでくるという、男性優位社会へのメッセージに感じ取れました。

ラストでエドナの皮を被って憑依していたのは、"認知症"で孤独死した曽祖父であり、その怨念の呪いとも取れますが、二世代の親子が受け入れたラストシーンから見ると、そういったニュアンスではなく"血は水よりも濃し"という宿命が、"家族"として営みを課せられた者への戒めのように、現代社会の核家族化への問題提起として、たとえ"認知症"がいずれ訪れる運命であっても、逃げ出すことはできないという意味なのだと感じました。
なにせ次の世代が後ろに待っているのですから…。
もしあの家からサムが娘と共に逃げ出しても、次の家ではサムがケイへと引き継ぐ宿命からは逃れられませんからね。

なかなか深い哲学的解釈ありきの良質ホラー映画に、4点を付けさせていただきました!
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