yukihiro084

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのyukihiro084のレビュー・感想・評価

4.5
今年、本屋大賞を受賞した辻村深月の初期の
名作(スロウハイツの神様)を思い出す。

文庫本で読んだスロウハイツの神様は
上下巻で、上巻は普通だが、下巻から
物語は一気に加速して見事な着地を迎え、
辻村作品の中でも人気作になった。

この映画も、最初の1時間は
特筆するものもない。だけど、だけど。

(ものすごくうるさくて、
ありえないほど近い)を観た。初鑑賞。
この映画の原作を書店で見かけた時、
買おうと思ったが(ありえないほど
高かった)ので買うのをやめた。
タイトルと装丁は好物だったのだけどね。

前にも書いたかもしれないけど、
映画には、稼がないといけない映画と、
作らなければいけない映画の、
2つがあると思っていて、
作らなければ、もしくは残さなければ、
もしくは、その時どうしても必要な映画がある。
まるでニューヨーク市民の息遣いが
聞こえてきそうな作品だった。
ニューヨーク市民全員が大きな輪になって
ハグをし合っているような作品に思えた。
ボストンのテロを描いた(パトリオット・
ディ)も、それに近いものを感じた。
あの頃の、もしくは今もだけど、
ニューヨーク市民は、みんな、
オスカー少年のようだったんだろうな、と。

この映画を観て改めて思ったけど、
そもそも論だけど、喪失と再生は、
映画でよく扱われるテーマではあるけれど、
実際は、人は簡単には立ち直れない。
真っ暗な穴の底で尻もちをついたまま、
動けないもので、人の声なんて耳に
入る訳がない。本当にもう心が壊れてしまう
ギリギリのラインで、人はなんとかどうにか
立ち上がるのだと思う。それはやっぱり
孤独な作業で、とても地味で静かで、
全然、劇的でもはなくて、本来は映画に
全然向いているテーマではないのだなぁーと。

まぁ実際は多くの映画の主人公は
1時間ちょいくらいで立ち直っていて、
僕らはそれを観ているのだけれど。

僕はこの映画好きでしたよ。
空気感、距離感、お喋りなのは主人公だけ。
ひとりよく喋る主人公、余計、彼の心の傷の
深さ、彼の心の危うさ、シリアスさを
浮き彫りにしているようで、悲しかった。
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