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メリダとおそろしの森のRenのレビュー・感想・評価

メリダとおそろしの森(2012年製作の映画)
2.0
ピクサーは『トイ・ストーリー3』で頂点を迎え『カーズ2』以降迷走していった、というのが当時の観客の見解だろうけど、ファンからしてもそう思われてやむなしの作品だと思ってしまう。

よく言われる「ドリームワークスっぽい」という評には半分同意する。『シュレック』や『ヒックとドラゴン』のような神話的世界観の中、でも中身は『塔の上のラプンツェル』であり『リトル・マーメイド』であり『ブラザー・ベア』であり『美女と野獣』。
創作に純粋なゼロイチは存在しないからこの批判は難しいけど、でも過去の名作アニメ映画の寄せ集めパッチワーク感が強すぎる。この作品からしか摂取できない栄養素が圧倒的に少ない。同じく評価の芳しくない『カーズ2』はまだ『カーズ2』でしか観られないものがたくさんあったぞ。

今作の問題点は明確にあるのだけど、まず前提として全然話が進んでない。母親のエレノア王妃にあることが起こってからやっと話が動き始めるのに、そこまでで40分(本編時間のほぼ半分!)使っている。異常なまでに進まない。

第二に、フリとオチが上手く呼応していない。あんなにこれ見よがしに繰り返し映していたメリダの弓さばきが、後半に全く活きてこない。あの魔女は本当に魔法をかけてしまうためだけに出てきたキャラクターだったのね。こんなにじっくり時間を割いたシーンが特に回収もされずに流れていく。
父親のファーガス王が過去に熊に襲われた因縁・トラウマも単にラストの勘違いにしか作用しせず、そこに彼自身の成長は無い。あの役は他国の国王たちにもできるでしょう。

色々なものが偶然と気合いで解決されていくのも物足りない。たまたま潜入がバレないし、三つ子たちがわーっと走れば鍵を盗めるし、母親がうぉーっと立ち向かえばモルデューはなんとかなってしまう。もう少しロジックをくれ〜と思うのは当然でしょう。ラストには魔法までもなんとなく解けて終わる。

今作はメリダの成長譚だけど、実は彼女こそが狂言回しでありヴィラン。
元はと言えば、母親の価値観の押し付けに耐えられなくなった反抗期のメリダが「とことん訴える」「出ていく」などでなく「相手の思想を薬かナニカを使って強引に変えようとする」中々にグロい応酬が生んだトラブルだ。
マイナス100を0に戻したところで話が終わってしまうのでカタルシスが特に無い。それを経て親子が具体的にどのように変化し、どのように社会を変え、どのように生きていくのか、その後日談こそが描くべき物語ではないのか?と思う。

伝統の名の下に理想像を押し付けていた母親と、他者に耳を貸さず親の言葉の節々にある愛に気付けなかった。自分の信念通りに突き進む勇気(brave)でなく、過ちを認めて他者を認める勇気の話だと解釈した。

総評、後にも先にも他のピクサー作品には無い雰囲気のある野心作だったけど、既視感があってキャラクター描写も浅くなんとも物足りない映画。
(なぜか)アカデミー長編アニメ映画賞を受賞してはいるけど、絶対に同年の『シュガー・ラッシュ』のほうがウェルメイドだと思う。

その他、
○ タイトル出るタイミングが勢い良くてかっこいい。
○『モンスターズ・インク』以降、唯一劇場鑑賞を逃した作品。その後TVや配信で観た。


《第85回アカデミー賞戦歴》
受賞
★長編アニメ映画賞
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