シズヲ

コンドルのシズヲのレビュー・感想・評価

コンドル(1939年製作の映画)
3.7
後年にも受け継がれるホークス流“男の世界”。プライドと実力を備えたプロフェッショナル集団、対峙する気丈な女性、軽妙な掛け合い、そしてアクション的見せ場の数々。既にホークス作品らしい骨子が確立されているのが凄い。ドライで男臭く、しかし何処か素朴で憎めない世界観がある。「パラシュートで飛び降りろ」「俺が邪魔か?」「来なくていい」「……峠はどっちだ?」こういった何気無く交わされる遣り取りの粋っぷりはまさしくホークスの味。キッドのコイントスがその後の結末へと繋がったりと、伏線回収の清々しさはニクい。

ホークスらしい美学に溢れた航空会社の面々は魅力的で、おおらかで気さくな仲間内の掛け合いにはやはり引き込まれる。酒場でジーン・アーサーの即興ピアノ演奏によって賑わうシーンは素晴らしい多幸感。過ぎ去ったことを引き摺らずにあっけらかんと受け止めるようなコミュニティの気風も印象深い(唯一の例外は仲間を見捨てるという“不義”に対してである)。それは彼らの死生観にも関わり、死と隣り合わせの仕事に就く男達の“潔さ”と密接に結び付く。飛行機の特撮も時代を感じるとはいえ、一定の迫力があって中々に興味深い。断崖沿いをギリギリで飛行する場面なんかは普通にスリリングだし、けたたましいエンジン音で緊張感を演出しているのも良い。

見終わってから振り返ってみるとケイリー・グラントのパイロットとしての活躍は殆ど無くて、専らヒロインとのロマンスに終始しているのが妙に印象的。また途中参戦のマクファーソン絡みのドラマが思った以上に大きなウェイトを占めていて、終盤では主人公の恋愛要素と同等以上の焦点が当てられている。それでも本作がそこまでブレているような感じがしないのは、話の中心はあくまで“航空会社=男達のコミュニティ”であるからだと思う。ケイリー・グラントはその象徴的存在なので、彼自らが動的な活躍をしなくてもコミュニティが描かれている限り軸はズレない。

“航空会社の一同と出会った気丈な女性”と“航空会社の一同から疎まれたパイロット”が登場し、それぞれ恋愛/名誉挽回によってコミュニティへと招かれる物語構図となっているのも面白い。男の世界との“接触”、そして“帰属”へと至るまでの儀式めいている。『リオ・ブラボー』のヒロインも似たような立ち位置にいたけど、本作においてはそのポジションを担う両者が話の中核を成しているのでより全体としての印象が強くなっている。
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