シズヲ

ミレニアム・マンボ 4Kレストア版のシズヲのレビュー・感想・評価

3.5
新世紀を迎えて間もない2001年、台北の片隅に横たわる若者の刹那的な記憶。主人公を取り巻くのは“閉ざされた空間”であり、閉塞的な“屋内の世界”である。クラブやパブで過ごす鮮やかな喧騒、恋人と暮らすアパートでの窶れきった停滞感。極彩色に揺れ動く躁鬱の感覚と共に、映画は新世紀に湧く時代の片隅にいた一人の若者の断片を追っていく。

仄暗く窮屈な空間の中に差し込まれる色合いの演出が非常に鮮烈。照明の光が煌めくクラブの享楽的なムード、鬱屈に満ちた自宅の退廃的な色彩、いずれの美術設定も鮮やかな印象に溢れている。酒やタバコ、ドラッグなどが転がる閉鎖的な空間の撮影にある種の美学を感じる。主演女優であるスー・チーの雰囲気も良くて、彼女が煙草を吸ったり気怠げに酒を呷ったりする絵面からは草臥れた美しさが滲み出る。要所要所で流れるクラブミュージックも印象的。

尤も、倦怠期のカップルのひりついた空気が延々と続くことも相俟って、段々映像の窮屈さと場面の中弛み感が勝ってきてしまった感は否めない。何だか『ブエノスアイレス』らへんを思い出すけど、あちらも微妙に乗り切れなかった。独白による語りで物語としての緩急や骨子を作っていることも分かるけど、その後の展開を概ね語っているので緩慢なテンポへの気怠さも強くなっている。

映画の物語は全編を通して何処か希薄であり、長回しの撮影も含めて人間観察的な味わいがある。それでいて喧騒と倦怠を往復しながら淡々と“シーン”が描かれていく内容も相俟って、生活感を滲ませているにも関わらず奇妙な浮遊感が作中に漂い続けている。冒頭でこの物語が“十年前の出来事”として振り返られることもあり、時代の陰に転がる記憶を繋ぎ合わせていくような哀愁に溢れている。

それはそうと本作、ちょくちょく日本が舞台になるほか、北海道夕張市のシーンが印象的に用いられているのが妙に興味深い。この辺りの場面だけは本作のムードの外側にあるというか、ラストも夕張の雪景色の中で締め括られるのが何だか面白い。
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