Kuuta

地獄の黙示録・特別完全版のKuutaのネタバレレビュー・内容・結末

地獄の黙示録・特別完全版(2001年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

画竜点睛というか竜頭蛇尾というか、道中のジャングルクルーズが細切れなエピソードながらどれも素晴らしい完成度なのに対し、ラスト15分、肝心のカーツ大佐がマクガフィンでもないのに迫力不足で物足りない。カーツが神と称えられる理由がよく分からず、魅力のあるキャラクターに仕上がっていない。マーロン・ブランドが太り過ぎで予定していた脚本が大幅に変わったのが原因だろう。最後のウィラード(マーティン・シーン)の葛藤もちょっと投げっぱなしな印象。

死体がゴロゴロ転がっていて、生死の境すら曖昧な世界。牛とともに死んでカーツは神話となり、ウィラードは王殺しの後、元来た道を引き返すが(行って帰る話)、彼にももはや故郷はない。恐怖から逃れるためなら普通の人が獣に変化してしまう。迷いを捨てた戦士を象徴する予防接種のエピソードは強烈。

地獄に向かって川を北上し、ベトナム側の陣地に近づいていく。狂気と恐怖が増し続けるロードームービーのようにも見える。フランス人一家の件、浮いてるし退屈だなと思ったら追加シーンだったよう。「フランスの植民地支配には信念があるのにアメリカは空っぽ」と言われてもあまりピンと来なかった。

ワーグナーはやはりナチスのイメージなんだろうか。とにかく全編にわたって撮影と音響が素晴らしい。何度見てもキルゴア中佐の襲撃シーンのキレ味は最高。予算の掛け方も、スケールも普通の映画と格が違う。色付きの煙がLSDっぽい。

キルゴアのストレートな狂気が語られがちだが、彼が青空の下で大騒ぎしているのに対し、カーツは暗闇に潜み、まさにジャングルと渾然一体となっている(マーロンブランドの全身が映るシーンを減らしたという事情もあるが)。

最終的にベトナム戦争すら本筋とは関係無くなり、欧米の植民地支配への批判、文明の方が野蛮であり、戦士としての誇りを持とうとしない社会に「Apocalypse Now!」と叫ぼうとしたジョン・ミリアスのメッセージもだいぶ曖昧になっているが、コッポラがその時出来る範囲で良くも悪くもまとめたんだろうなという印象が強い。78点。
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