あなぐらむ

インビジブル・ターゲットのあなぐらむのレビュー・感想・評価

インビジブル・ターゲット(2007年製作の映画)
4.5
監督は「香港国際警察」「ディバージェンス」の故・ベニー・チャン(早死にしすぎ)。
トーさんと同じく、香港で頑張って映画を撮ってくれてたえらい人。
思えばこの二人って、師弟関係なのね(ベニー・チャン監督のデビュー作「天若有情」はトーさんプロデュース)。
主演は「香港国際警察」でもチャン監督と組んだニコラス・ツェー、いまや香港映画の顔となりつつある(公開当時)ショーン・ユー、そしてジャッキーJr. ことジェイシー・チェン。チェン監督の前作「プロジェクトBB」でアクションが少なかったという評価が出ていたので今回は若手を使ってアクションてんこ盛りの映画を作ろう、という事で企画されたのが本作。
確かに2時間強の上映時間中、アクションにつぐアクションで見せきる非常にテンション高い作品に仕上がった。

ベニー・チャンの映画は、失意の中にいる主人公がアクションの中で再起していく様を描くものが多い。
「香港国際警察」のジャッキーにしてもそうだし、「ディバージェンス」のアーロンもそう。
キャラクターがアクションすることで、ある時は敵への執着であったり、ある時は呪縛からの開放であったりという内面を表現させていくこの手法はアクション自体が「ドラマ」になる巧い作劇だと思う。
よって見る側はアクションにハラハラしながら、同時にいつの間にかキャラクターに感情移入してしまう。
本作では監督自身心がけたという、とにかく肉弾戦のアクションがふんだんにあって、その実際に拳がぶつかり合うアクションの迫力に息を呑む。
人が蹴られガラスが割れ、テーブルが粉々に砕ける、そこには明らかに「重み」があり肉が軋む「痛み」がある。
人が無意識に感じるこの「痛み」「重み」こそが感情移入への導線なのだ。これこそが香港アクションの強みだ。

ニコラス・ツェーは「鉄拳高」などでもキレのいい格闘アクションを見せてたが、本作ではジャッキーの後継者を(マジで)自任するだけあって危険を厭わぬスタント(ビルからビルへの飛び移りや走行している車からの落下、など)を次から次へとこなしている。
暫く見ない間にすっかり大人っぽくなって、情感ある演技も達者に見せてくれる、いい役者さんになっていて驚いた。
相方のショーン・ユーも「軍鶏」などで鍛えたアクションには定評があり、本作の初登場シーンなどは非常によい動きを見せている。
一番アクションができないと言われていたジェイシーだが、それでも父の血を受け継いでいるからか、なかなか頑張った。
彼は本作のドラマのもうひとつのテーマでもある「愚直な正義」を体言するキャラクターでもあり、よい演技を見せている。

その他のキャスト陣もかなりオールスターキャストな感じで、ニコラスのおじきにはロー・ワイコン、内務調査のラウ警視にはマーク・チェンといった香港映画ファンにはおなじみの名脇役が配されてるほか、事件の鍵を握る男には最近富に演技派開眼な感じのサム・リー、ちょい役だが「あーこういうヤツおるおる」なキャラでラム・シューおじさんが出てたりしてまた嬉しい。
悪役では主犯格のヨンサンを演じるウー・ジンがとにかくスゴイ。一人で若造3人を相手にできる強い悪役、という事でキャストされたという事で、その圧倒的なアクションのキレ、凄みは一見の価値あり。
また、ヨンサンの右腕、ヨンイーをアンディ・オンが抑えた演技で見せていてこちらも注目。ヨンサンのように非情になりきれず、ワイとつかの間心を通わす悪役としては美味しい役どころ。
自慢の足技はあまり見られないが、印象に残る。

いつもよりは泣きの成分が少ない感じのベニー・チャン演出だが、その分アクションに重きを置き、爆破の量もいつもより多め(笑)でとにかく派手なアクション、観客が見たがっているであろうアクションをという意識が全編に溢れていて力強い。