コーカサス

深夜の告白のコーカサスのレビュー・感想・評価

深夜の告白(1944年製作の映画)
3.9
スイカズラの香水が強まるころ…

「郵便配達は二度ベルを鳴らす」などで知られるジェームズ・M・ケイン原作の『倍額保険』を、ビリー・ワイルダーとレイモンド・チャンドラー(「大いなる眠り」)が共同で脚色したワイルダー監督初期の傑作フィルム・ノワール。

映画通、あるいはワイルダー信者ならご存知の方もいるだろうが、一見豪華なこのビッグ3も、ワイルダーとチャンドラーは初顔合わせから仲が悪く、おまけにチャンドラーは大のケイン嫌いだった…というのだから、大人の世界とは複雑なものである。
しかし、そこはプロ。
相変わらず脚本が素晴らしい。
「このお洒落でちょっぴり皮肉めいた台詞回しはワイルダーで、このいかにもマーロウが云いそうなハードボイルドでタフな台詞はチャンドラーだろう」と、終始我々映画ファンを楽しませてくれる。
そして、やはりこの年代のスーツやソフト帽は本当に良い。

物語はまさにタイトル通り、マクマレイ演じるネフが、ひとり深夜に犯した罪を告白する回想劇だ。
その匂い立つようなフィリス (スタンウィック) の香りや煙草の紫煙、光と影のコントラストなどはモノクロならでは。

“マッチ嫌い” の同僚キーズ (ロビンソン)が、ネフに擦って差し出すマッチの柔らかい灯と最期の台詞が余韻を残す。

殺人は時に甘い香りがする…らしい。
それは勿論、スイカズラの香りである。

134 2020