Nasagi

バルカン超特急のNasagiのレビュー・感想・評価

バルカン超特急(1938年製作の映画)
3.9
特急列車の走行中に「いたはずの乗客」が忽然といなくなるというサスペンス劇。ヒッチコックがまだアメリカに渡る前、イギリス時代の作品ですが、かなり評価の高い一作みたいです。

オープニングで列車と駅全体を引きで映して、そこから徐々に画面を拡大していき、乗客が泊まるホテルの中へと行き着きます。ホテルのシーンでは、人物紹介もかねてしばしコミカルな寸劇が繰り広げられて、これがけっこう楽しい。いいセンスだ。
列車が走り出してから少しして「謎」が提示されると物語も一気に加速して、そこから先はずっとスリリングで面白いです。

消えた乗客を探す主人公は、結婚を控えた若い女性で、だれも彼女のいうことをまともに聞いてくれないばかりか、医者を名乗る男には「精神分析的にじつに興味深い症状だ」などと言われる始末。背景には当時のステレオタイプである女性とヒステリーを結びつける意識があると思います。唯一味方になってくれる男はいわゆる「第一印象はサイアク」なやつですが、だんだんいい感じの関係になっていくのはまあテンプレです。

列車内の乗客は主人公と同じ「英国人」サイドと「外国人」サイドに分けられ、その中で疑心暗鬼のゲームが繰り広げられる感じなんかは第二次大戦前の不穏な空気が反映されているそうです。最後の銃撃戦なんかちょっとプロパガンダっぽく見えます。
乗客の中にクリケット大好きな英国紳士2人組と不倫関係のカップルがいてすごく面白いキャラなのですが、自己中心的だし妙に呑気だしで、たぶん(ナショナリストに忖度して)「英国人的な態度」を皮肉っているんだろうと思います。
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