革芸之介

やさしい女の革芸之介のレビュー・感想・評価

やさしい女(1969年製作の映画)
4.3
最初から驚愕のシーンが連発。家政婦が部屋に入り、ベランダのテーブルが倒れ、揺れるロッキンチェア。そして浮遊しながら落下するストールの不穏な美しさ。もう最初からカット割りが素晴らしい。

ブレッソン作品お馴染みの「渡す」「受け取る」動作の演出の豊かさも良い。お金や質に入れる商品の受け渡し場面や、浴室の床に滑り落ちる石鹸を夫が拾い、風呂の中のドミニク・サンダに「渡す」シーンが艶めかしい。そして、夫にコーヒーカップを「渡す」時の微妙に震えた感じの渡し方が画面に不穏な空気感を呼び込む。

ドミニク・サンダが拳銃を持ち、夫のベッドに向かう時の足音と床の軋む音のサスペンス性も怖い。

そしてなんといっても、ドミニク・サンダの「目」が凄い。夫はひたすら過去をナレーション風味の「言葉」で語る。反対にドミニク・サンダは目で、視線で、眼差しで夫に対抗する。

この視線は同じくブレッソン映画「バルタザールどこへ行く」のロバのバルタザールの目と視線に似ている。バルタザールは、もちろん動物なので言葉は話せないが、目で悲しみを表現し、その視線の見つめる先は、人間たちの愚かさであった。

ドミニク・サンダの目と視線も夫の独りよがりな言葉に疑惑の目を向け、夫の言葉を打ち破る。この視線は映画として圧倒的に正しい。
革芸之介

革芸之介