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ダロウェイ夫人のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

ダロウェイ夫人(1997年製作の映画)
3.9
「めぐりあう時間たち」のモチーフとなった「ダロウェイ夫人」。ヴァージニア・ウルフ原作。「めぐりあう時間たち」は死と不安に包まれていましたが、こちらは、第一次大戦によるPTSDの男性が死を一気に引き受けていて、映画全体には死の影は忍び寄ってはいませんでした。

ただ、主人公のクラリッサ・ダロウェイが誰もが羨む満ち足りた暮らしを送っているに、老いを前にして、これでよかったのか、これは偽りの人生なのではないか、と迷います。

繊細な心の機微が文学的に表現されていて、小説を読んでいるようでした。

好奇心旺盛で活動的なクラリッサが選んだのは、名家のダロウェイ夫人という地位。決して打算で選んだのではない、安定と安心がほしかったから。いわゆる恋愛と結婚は別っていうあれです。冒険的で知的でたくさんのことを求めてくる情熱的なピーターとの恋愛には受け身ではいられず、求められていることを与えられないと悩み不安になり、ただ居るだけで受け入れ叶えてくれる楽なダロウェイを選びます。なんの情熱もない代わりに、ダロウェイ夫人を演じる女優として偽りを生きることになります。

若い頃のクラリッサ役のナターシャ・マケルホーンが輝く美しさなのですが、40年(たぶんそのくらい)後のクラリッサ(ヴァネッサ・レッドグレイブ)は、上品で知的で、お転婆だった若い頃のクラリッサの面影を残していました。二人とも素敵です!

「めぐりあう時間たち」の元になった原作を知りたくて観ましたが、「めぐりあう時間たち」ではクラリッサの閉塞感と病んだ人の不安が倍増拡大していたんですね。こちらはあそこまでエキセントリックではなく、抑制している思いが、時々顔を出し、日常に影を落とすけれど、また日常に飲まれていく、そんな夫人の不安でした。
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