カツマ

ハート・ロッカーのカツマのレビュー・感想・評価

ハート・ロッカー(2008年製作の映画)
3.9
地獄のような大地に爆風の海が舞う。痛みの連鎖はいつまでも漂流しながら、その鍵の在り処を探し続ける。終わりのない戦争、尽きぬ犠牲。あまりにも凄惨な現実を目の当たりにした兵士たちが、極限状態の中で戦い、悩み、生死の狭間で揺れ続けた。何故彼らは戦い、危険な任務へとその身を投じるのか。勇気ある兵士たちにスポットライトを当てながら、現在の戦争の姿をあくまでフィクションという枠の中で描こうとした映画であった。

本作はアカデミー賞に9部門でノミネートし、作品賞を含む6部門で見事受賞。監督のキャスリン・ビグローが女性監督初のオスカーに輝いたことでも、映画史にその名を刻んだ作品だ。アベンジャーズ界隈でお馴染みのジェレミー・レナー、アンソニー・マッキーが主演タッグを演じ、危険な爆弾処理ミッションへと恐怖の綱渡りを繰り返していく。彼らは戦争の果てに何を見て、どんな未来を見つめるのか。それぞれの答えの先に待つものとは果たして何か。

〜あらすじ〜

2004年、戦地のイラクにて。アメリカ軍危険物処理班の3人はロボットを用いて慎重に爆弾の処理を遂行しようとしていた。だが、その最中、敵の罠にハマり、軍曹のトンプソンが爆弾の犠牲となり命を落とし、ミッションは失敗に終わった。
トンプソンの後任として派遣されてきたのはウィリアム・ジェームズ軍曹という変わり者の男だった。彼はロボットも使わず防護服のみで爆弾へとスタスタと歩いていき、いともあっさりと爆弾を処理してみせた。だが、仲間との通信に答えないスタンドプレイのせいで、同じチームのサンボーン軍曹とは言い争ってばかりだ。
それでも幾度もの修羅場を潜り抜けてきたジェームズの手腕は本物。過去に873個もの爆弾を処理したという実績を誇り、チームを振り回しながらも処理班の3人は順調に任期終了への日々へと近づいていたのだが・・。

〜見どころと感想〜

『ハートロッカー』というタイトルはアメリカ軍の俗語で『極限地帯』『棺桶』の意味があるそうだ。イラク戦争の壮絶さを分かりやすく示唆したタイトルに相応しい、この世の地獄とも呼べる煉獄の舞台が徐々にそのヴェールを剥いでいく。特にジェームズと子供のやり取りから端を発するある出来事によって、一層戦地は予断を許さぬ極限状態へと突入。ヒリヒリとした緊張感に呑み込まれながら、死神の足音はジリジリと兵士たちの近くへと迫ってきていた・・。

同じくキャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』は完全に実話ベースで話が進むが、こちらはイラク戦争を題材にしていながらも、ドキュメンタリータッチではなく、あくまでフィクションでの描き方に徹底している。そのため、兵士のそれぞれの感情の機微や揺れ動きにもドラマがあって、そこから派生していく結末での会話が何より彼らの『生きたい』という想いを代弁していた。戦争に綺麗事などない。だからこそ、彼らのような戦士たちの声が戦争の本質を伝える。完全にアメリカ視点だとしても、そこには終わらない戦争のリアルが消えない傷のようにクッキリと刻印されていた。

〜あとがき〜

アカデミー賞受賞作品の名に恥じない鬼気迫る戦争描写に終始緊張感に包まれる映画でした。完成度で言ったら恐らく『ゼロ・ダーク・サーティ』の方が上かと思いますが、ジェレミーら俳優陣がぶつかり合う人間ドラマとしては、よりフィクション寄りのこちらの方がエンタメ性は高かった気がしますね。

人間爆弾の恐ろしさに戦慄し、戦争の悲惨さの底のなさが鬱々と残り続ける作品でした。ラストのジェームズの選択肢はやはりというか、とても彼らしかったと思いましたね。
カツマ

カツマ