Azuという名のブシェミ夫人

髪結いの亭主のAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

髪結いの亭主(1990年製作の映画)
4.2
少年アントワーヌは床屋が好きだ。
正確には、豊満な身体をした床屋の女主人、シェーファー夫人に魅了されている。
彼は将来床屋の女と結婚することを決意する。
そして月日は流れ、アントワーヌはついに理想とする床屋マチルダに出会う。

アントワーヌの行き過ぎたフェティシズムが、なんというか物凄い高みまで登り詰めていて、ある種の崇高さまで感じる。
『仕立て屋の恋』でもそうだったけど、女を見つめる男の観察とも言えるような眼差しが印象的。
少年期からの夢を果たしたアントワーヌの恍惚とした表情。
それに答えるマチルダの微笑。
別段露出が多い訳でもないのに、匂い立つような色気を放つマチルダがとても素敵。
“エロ”じゃなくて“官能的”。
こんなフェロモンが欲しいわ。

オーデコロンを混ぜたカクテル、接客中のセクシュアルな悪戯、アントワーヌの謎なダンス等々、色々突っ込みたくて仕方がないけど黙って観ちゃう。
ポカーンとしたまま散髪されたあの男の子みたいに、ただただ見つめてしまって目が離せない。

床屋という小さな神殿で、美しきミューズを眺め愛でる。
マチルダもまた、彼の永遠の愛の中に居たかったのね。
“性”と“生”に溢れた二人だけの世界は、ずっとあの床屋にあるんだろう。

これぞフランス、これぞルコント。
恐るべし、愛の世界。