Oto

キング・オブ・コメディのOtoのレビュー・感想・評価

キング・オブ・コメディ(1983年製作の映画)
3.8
『JOKER』のおかげでみんなスコセッシ観てて良いなぁ。

「こんなのおとぎ話じゃん!」と切り捨てられるような世界だったら良かったけど、物語前半の決定的な事件を起こす前のパプキンなんてSNS上にいくらでもいるし、自分と重なる部分も大いにあるし面白い。
自分は他のファンとは違うと思い込んでいて、大した成果はないのに自信だけはあって、スターと自分は土俵にいると思っていて、助けてもらえないと逆恨みして、叶わない妄想を追い続けている人。
ただそれを否定的に描いて終わりにしないのがスコセッシの視野の広さで、どの作品にも共通するけど、そこで爆発した思いが起こす出来事が主人公や周囲を変えていくというのが素晴らしいと思った。全体的に暴力とかほとんどないけどスコセッシらしい、ダメな人に寄り添う映画だった。

メモ
・冒頭の番組風を望遠の画角で映しているの見て、「予算が足りなかったの?」とか制作視点で考えるようになったの映画作るようになってからかも。
・冒頭の出待ちシーンの迫力、歓声と打撃。ここは音の演出がすごい。人気者の描写の参考になるので、いつかやってみたい。
・モノローグと妄想のカットバック、これ以降は虚実皮膜で、妄想か現実か判らないものが続くのが面白い。同級生リタとの会話も妄想だと思って見ていた。そこから現実に戻すお母さんの声が効果的。
・彼女が言う「what do you want? 」は良いセリフ。求めてないものを与えてしまうありがた迷惑やりがち。
・モノローグと本人が気づいていない恐怖。天井見上げたり面会終わっても待ってたり、細かい仕草が怖くて上手。名前を覚えてもらえないのも「無敵の人」感が出て良い。
・ストーカーとの対立・協力。お前とは違うと言いつつ完全に同じ側の人間というのがわかっていくのがスリリング。だんだん妄想は妄想と明らかになってしまうけど。
・別荘押しかけた時にリタが積極的すぎたのが少し違和感。一気に引いてはいたものの。
・直接的な拒絶がトリガーになるのがリアル。M-1の決勝発表で泣いてる芸人がたくさんいたり、出待ちで大騒ぎしてるファンをみているとこれも全然フィクションじゃない。
・カンペが裏表、上下反対とかも絶対に必要な描写で良い。誘拐しておいて喧嘩を始めちゃうというギャグも好き。
・「有名税」最悪の言葉だな〜と改めて思った。格差が問題なのはたしかだけれど、なぜ加害者基準なんだ。
・食卓シーンこわくて最高。下着で走っていったマーシャにも救いが欲しかったけど。
・成功するのも批評性を含んでいて良い(妄想説もあるけど)。コンテンツは刺激的であればOKみたいな風潮未だにあるし(N国、山根会長...を面白がる)、かといって無為で売れない芸人には決定的に欠けた面白さもあると思う。
・スタンドアップコメディの文化をほぼ知らないものの、ネタの中身をちゃんと見せた誠実さがさすが。少し感動する。
・これ、元のポスターの「It's no laughing matter!」が素晴らしいコピー。日本版は情報量がない。
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