LalaーMukuーMerry

オレンジと太陽のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

オレンジと太陽(2010年製作の映画)
4.5
「児童移民トラスト」という団体をご存じでしょうか?(私はこの映画で初めて知りました) 
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かつてイギリスでは、貧困家庭の子や私生児などを親と引き離して旧大英帝国の植民地(主に白豪主義のオーストラリア)に集団で送る政策が行われていた。戦後すぐに盛んになり1970年まで続けられた。子どもたちは、騙されてやって来た見知らぬ土地で、児童労働をさせられたうえ、大人たちから精神的にも肉体的にも性的にもひどい虐待を受けた。そういう子供たちが13万人もいたという。児童移民によって悲惨な子供時代を過ごした人たちの実の親を本国で探しだし、引き合わせる活動をしている団体が児童移民トラストだ。
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この映画は、団体を立ち上げるきっかけとなった、ソーシャル・ワーカーのマーガレット・ハンフリーズ女史の実体験を基にした作品。
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私が学校で習った頃、イギリスは「ゆりかごから墓場まで」と言われるほど社会保障の行き届いた国とされていた。実はその裏でこういうことが行われていたということ。ソーシャル・ワーカーの彼女でさえ、当時(1987)そのことを全く知らなかった。児童移民の記録を調べようとするが、なかなか記録にたどり着けない。政府が不都合な事実を掘り起こすことを望まなかったから。反対勢力(その政策に協力していた教会や慈善団体のシンパ)からの脅迫を受けることも・・・
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社会的な内容だけれど、スポットが当たるのは児童移民を経験した一人一人の気持ち。さすがは巨匠ケン・ローチ監督の息子だけのことはある、ジム・ローチ監督の初作品、いい仕事してます。児童移民の人に当時の事を聞く場面がいくつか出てくるのですが、とてもつらい気持ちになります。その気持ちこそが観客に行動を起こさせる力になる。
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彼女が「からのゆりかご」という本を書き、団体を立ち上げ、イギリス国内に「児童移民」が知られるようになったのが1987年。イギリス政府が過去の過ちを認めて謝罪したのは、やっと2010年になってから、この映画ができた年だ。この映画がきっかけで謝罪に至ったのだろうか? そういうふうに考えたい。映画の力!
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関連して思い出すのは、次のような作品。
・「素足の1500マイル」(2002):
  アボリジニと白人の混血児童に対する強制里子政策
・「スポットライト~世紀のスクープ~」(2015):
  カトリック教会による児童虐待
・「マグダレンの祈り」(2002):
  カトリック教会修道院での未婚の母に対する虐待
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