LalaーMukuーMerry

娘は戦場で生まれたのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

娘は戦場で生まれた(2019年製作の映画)
4.3
映画の舞台は、2012~16年のシリアの古都アレッポ。2011年の「アラブの春」ムーブメントがシリアにも波及し、アサド大統領の独裁政権と、自由を求める反政府勢力との争いは、武力衝突に発展し(シリア内戦)、その最大の激戦地はシリア第2の都市が舞台となった(アレッポの戦い2012-16)。欧米メディアは主として反政府勢力サイドの報道を続けたが、結局2016年12月に政府軍が街を完全制圧して戦いは終わった。
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これは、アレッポ在住の若いジャーナリスト女性が、内戦の始まりから敗北までの民主化勢力の様子を、その内側からハンディカメラで撮り続けたドキュメンタリー。病院に担ぎ込まれる負傷者たち、彼らを必死で手当てする医師たち・・・街を出て避難する人たちが増える中、絶対に逃げないと誓って頑張る反アサドの医師たち。その病院を爆撃したロシアの戦闘機・・・
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戦闘が続く混乱の中、若い医師の一人が彼女にプロポーズ。彼女は一年後に女の子を出産。こんな状況でも愛は生まれ、新しい命が生まれる。この出産シーンにとても感動した。命の大切さを思う。
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街が陥落してすぐに、夫婦は幼い娘を連れ、政府軍に完全に包囲された街から出たのだが、この時捕まっても少しもおかしくない状況だった。そうなっていたら、このドキュメンタリーは世に出なかっただろう。そう考えると本当に貴重な作品。
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シリア内戦の日本での報道は非常に少なかったから、詳しいことはほとんど知らない。以下はwikipediaを見ての私なりの超まとめ
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アラブの春の影響で、アサド政権 vs 民主化を求める反政府勢力 の対立が生まれたが、すぐにそんな単純な対立ではなくなった。シリア政府軍側はイラン、ヒズボラ、後にロシアの支援などを受けたが、反政府勢力側はアメリカ・オバマ政権の支援を受けられなかった。それは反政府勢力が決して一枚岩ではなく(この作品に出てくるような人たちだけではなく)、イスラム過激派ISILも含んでおり、それが急速に台頭して、その残忍な行為がネットで流布され、欧米メディアの報道姿勢が変化したことによる。(なぜISILと民主化勢力が一つになったのか意味不明だが、「敵の敵は味方」ということで、反アサドで一致した結果だろう)
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結局、日本ではISが完全に打倒されたことが前面に出されて報道されたが、それは実はアサド独裁政権が民主化を求める反政府勢力に勝ったということも意味していた。
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ミャンマーの軍事クーデター(2021/2~)も、民主主義を求める国民にすぐに打倒されると思っていたが、そうでもなさそうな状況だ。最近の習近平中国の傍若無人の振る舞い(香港、ウィグル、尖閣、台湾・・・)にはあきれるばかり。こういう状況では民主国家が連携して習近平中国を抑え込まないと、日本も危ない。この期に及んで未だに中国との対立を避けようという弱腰姿勢を(経済の結びつきが大きいからという理由?)いつまで日本政府は続けるつもりなのだろう?