ろ

地下鉄のザジのろのレビュー・感想・評価

地下鉄のザジ(1960年製作の映画)
5.0

パリに遊びに来たザジは一目散に地下鉄へと向かう。
旅の一番の目的は地下鉄なのだ。
ところが地下鉄はストライキの真っ最中で、入り口にはシャッターが降りていた。

肩を落とすザジに、でたらめなガイドでパリを案内してくれる叔父さん。
翌朝叔父さんのアパートを抜け出したザジは一人パリの街へ繰り出すが、今日もまた地下鉄は動いていない。
悲しむザジに、怪しげな男が声を掛けてくる・・・。

ザジはブルージーンズを盗む。逃げながらあれこれ想像する。
追いかけてくるおじさんに釣竿で釣り上げられる自分、追いかけっこのつもりが写真を撮り合う二人、追いかけられていたはずなのに立場が逆転しちゃう1シーン。屋根の上で、タイルの丸い模様に沿って、爆弾を投げ合いながら。頭の中で駆け抜けるパリはとても気持ちよくて、ザジはからからと笑いながらどんどん走る。

エレベーターでエッフェル塔にのぼるザジと叔父さんとその友だちのタクシー運転手。
眼鏡を落としてしまった叔父さんはふらふらと彷徨い、唐突に懺悔と哲学を始める。鉄骨を上り下りしながら、海辺の灯台で荒波を被ったり、極地で白くまと一緒に凍えたり。パリにいながらイマジネーションの旅に出掛け、黄色い風船で風に乗り、ふたたびパリに降り立つ。

スーツの胸元に赤い花を差している男は、飛び散ったムール貝の汁を拭くのに大忙し。
子どもを助けようとした人たちは、いつのまにか自分たちの自慢話に大騒ぎ。
酔っ払いはグラスを割り、料理にケチをつけてウェイターと口喧嘩。
踊り子も花嫁も、大家さんも靴の修理工もドイツ娘も、スパゲティを投げ合い壁を突き破り、気絶したウェイターを積み上げて拍手喝采。

地下鉄の代わりに、どこか無邪気な大人たちと過ごした2日間。
早送りで過ぎていくパリの街並み、パリジャンとパリジェンヌ、車の波。
だけどザジの中ではきっとスローモーション。
ろ