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潮風のいたずらのろのレビュー・感想・評価

潮風のいたずら(1987年製作の映画)
5.0

さびれた港に停泊中の真っ白なクルーザー。
大工のディーンはクローゼットの増築を依頼される。
夫人ジョアンナの横柄な態度にうんざりのディーン。
しかし、翌日のとあるニュースにいたずら心をくすぐられ・・・

クルーザーから海に転落し記憶を失くしたジョアンナ。それをいいことに、家政婦として働かせて仕返ししてやろうとディーンは彼女を引き取る。
夫を装い「ハニー!」と呼びかけ熱烈なキスを浴びせると、「君はかつて海軍で働いていたじゃないか、お義母さんは大酒飲み、お義父さんは2年後までムショだろう?」と、出るわ出るわ出まかせの記憶(笑)挙句、「君は背骨が曲がるのを気にしていつもここで寝ていただろう?」とソファで寝かせる始末。雨漏りの下、ジョアンナはバケツを抱えながら「私はちびでデブでふしだらな女だったんだわ」としょんぼり眠る。

奴隷を手に入れたぜと上機嫌のディーンに対し、夜明けとともにまた悪夢が始まるのねとため息をつくジョアンナ。
家事のやり方も知らないから、バナナの皮やシリアルまで全部掃除機で吸っちゃうし、たきぎを切るにも一苦労。しかしくたくたに疲れている彼女を放っておかない偽家族たち。ごはんを急かし、さらにはデザート用のお皿に接着剤を仕掛けて・・・

いつのまにか霜のとれた冷蔵庫。
シンクにたまった食器も、脱ぎ散らかしたシャツや靴下もきちんと片付くようになった。
いたずらに明け暮れていたこどもたちは机に向かって宿題を解くようになり、ディーンが帰宅すると「今度、学芸会に出るんだ!」「僕は英語でAを取ったよ!」と得意げに話してくれるようになった。
家族みんなでキャンプを楽しみ、仕事ではジョアンナのアイディアが採用され、いよいよ冗談では済まされなくなってきたと焦るディーンは、彼女に真実を打ち明けようとする。
一方その頃、ジョアンナの夫は義母に脅され彼女を探し回っていた・・・

「人間は与えられた環境に甘んじて視野を狭めがちですが、あなたは運がいい。人生を別の視点から眺める機会を得られたのです。それをどう生かすかはご自身次第ですが」

金を人もすべて思い通りだったジョアンナは、何不自由ないはずなのにいつもゴージャスなベッドにふてくされた顔で横たわっていた。
しかし記憶喪失をきっかけにシャンパンよりビール、煙草よりおしゃべりを楽しむようになったジョアンナは、人生の舵を自分で切ることにする。

沿岸警備艇でジョアンナを追うディーン一家。
船長は怪訝そうに「これは法規違反になるんじゃないか?」「いいえ、リストには”愛の告白”は載っていません」
船の拡声器から響く「そこの船止まりなさい!僕たちのママを返しなさい!」

いたずら以外の楽しみを見つけた4人のこどもたち、そして復讐心が愛に溶けていくディーン。
ささやかな変化の積み重ねがみんなをハッピーにする、まるでワイルダーの映画のようにあたたかくて思わずホロリときてしまう。春の味のほっこりコメディでした。
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