てつこてつ

恋する惑星のてつこてつのレビュー・感想・評価

恋する惑星(1994年製作の映画)
4.5
数年おきに見直したくなる、それまでMr.Booシリーズのようなドタバタコメディ物か、ジャッキー・チェンのアクション物か、ジョン・ウー監督作品群のフィルムノワール物しか知らなかった自分自身の香港映画のイメージを大きく変えるきっかけを与えてくれたウォン・カーウァイ監督の代表作。値段が大幅に下がっていたので特典映像付きブルーレイを購入。

1997年のイギリスからの中国への政治主権の返還(香港返還)直前の香港の混沌としながらもエネルギーに満ち満ちたパワーを感じることができて、何だか見ているだけで元気が貰える。

作品は二部構成。第一部は金城武演じる若い刑事と、特典映像でタランティーノも語っているが、ウォン・カーウァイ監督が大好きな作品であったジョン・カサヴェテス監督作品「グロリア」のヒロインを彷彿させるような髪形の金髪ウィッグにサングラス姿の謎の女性を演じたブリジット・リンの二人による、よりスタイリッシュさに重点を置いたストーリー。

この作品で初めて存在を知った金城武のオーラは凄かったし、劇中でも完璧なアクセントやイントネーションで日本語の台詞を言うシーンに驚いたもの。後に彼が日本人の父親と台湾人の母親を持つハーフであることをしり、日本でも深田恭子との共演で話題となった連続ドラマ「神様、もう少しだけ」でも、日本人教師の役を完璧な日本語の台詞回しで演じきり、ドラマ自体も秀逸な内容で、その演技力に舌を巻いたもの。

往年の台湾・香港を代表する映画女優ブリジット・リンも、アジア系には決して似合わない筈の金髪のウイッグ姿がきちんとサマになっており、闇社会に生きる女性が持つ独特な孤独感やアンニュイな雰囲気の出し方が抜群に上手い。劇中では、ほぼサングラスを外す姿は登場しないが、特典映像では撮影当時40歳とはとても思えない美しく白い肌と美貌を存分に拝むことができる。

第二部は、トニー・レオンとこの作品が映画デビュー作となったポップシンガー、フェイ・ウォンが織りなすポップでユーモアたっぷりな楽しいラブストーリー。トニー・レオンの警官役の制服姿が実に似合っているし、この後に制作された「花様年華」や「ラスト、コーション」の円熟味を増した演技もいいが、若かりし頃の彼の魅力が実に良く引き出されている。このイケメン警官に一目惚れする、どこか不思議で掴みどころがなく何をしでかすのか分からない飲食スタンドの若い女性店員というキャラクターは、まさにフェイ・ウォンのファニーフェイスが存分に活かされた当たり役。

警官が住むアパートは香港島の観光名所でもある大エスカレーターのすぐ側とく絶妙なロケーションであるが、当時、撮影監督であるクリストファー・ドイルが実際に住んでいたアパート内で撮影したのとのこと。聖地巡礼じゃあないけど、実際に香港に行った時は、このエスカレーターに乗って、どの建物がロケ地であったのか探したものだなあ。

ウォン・カーウァイ監督ならではの多種多様な撮影技法は抑え気味ではあるが、要所要所で非常に効果的に使われているし、やはり映像にこだわる監督だけあって、全てのシーンが美しい。

第一部は九龍半島、第二部は香港島をロケ地として使い分けたセンスや、バロック調のバイオリンをメインとしたクラシック調の音楽から始まり、「夢のカリフォルニア」、そして、最後にフェイ・ウォンが歌う「夢中人」へと続いていく音楽構成も見事。

但し、ウォン・カーウァイ作品の特徴でもあるが、ストーリー自体に起承転結を求めて鑑賞すると、突っ込みどころもままあるので(第二部でヒロインが意中の男性からの誘いに対して、何故にあんな行動取るか・・とか)、雰囲気や映像センスを楽しむのが正解。

30年近くの歳月が経ってもいまだ色褪せず、それまでは欧米諸国ばかりに興味があった自分を初めてアジア圏にも興味を抱かせてくれた思い入れが大きい作品。
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