山岡

西銀座駅前の山岡のレビュー・感想・評価

西銀座駅前(1958年製作の映画)
4.5
今村昌平監督二作目。フランク永井のヒット曲を映画化した上映時間60分未満の小品。

地下鉄西銀座駅(今の丸ノ内線銀座駅)近くで夫婦で薬局を営む主人公(柳沢真一)。普段は薬剤師の妻(山岡久乃)の尻に敷かれているが、妻が子を連れて二日間の旅行に行くことになる。妻の不在を好機と悪友にけしかけられ、男らしさを証明すべく若い女との浮気を目論むという話。

ムード歌謡の映画化ということでどれだけカッコつけた映画かと身構えてしまったが、実際に見てみるとスラップスティックな性格の強い非常にライトなロマンティックコメディだった。ネオンサインを使ったタイトル~オープニングクレジットの後、街中の人々がミュージカル映画のように踊りながら「西銀座駅前」を歌うオープニングシークエンスがめちゃくちゃアーバン。是非この冒頭部分だけでも見てほしい。話の端々に登場する狂言回しのフランク永井の演技も軽く、良い湯加減。
若き山岡久乃は後年の『渡る世間は鬼ばかり』の時と全く印象が変わらない見た目だが、コントロールフリークでありながらどこかピュアで憎めない妻役を、少ない出番の中で見事に演じている。柳沢真一演じる主人公は結婚して子供もいるのに仕事は奥さんに任せっきりだし、従軍中に南方で出会った現地人との思い出にふけ、ことあるごとに妄想トリップする本当にだめだめな男。優柔不断で受け身型のダメな奴なのだが、急展開するストーリーの流れに身を任せる意思の無い主人公はこの手の作品にとってお決まりの役どころだ。そんな彼の前に一夜限りの相手候補として現れるのは、薬局の向いの文房具屋の娘(堀恭子)。完璧な美人ではないが、声やたたずまいが非常にキュートでこの役にピッタリ。二人が一夜限りのデートをするシーンはとても可笑しいしお洒落。デートの締めくくりは墨田川をボートでナイトクルーズという最高にロマンティックなコースだが、ここでの2人のやりとりが非常に洒落ていて(ボートのスイッチを超効果的に使ってる!)まるでアメリカのスクリューボールコメディのよう。しかしこのクルーズ中に嵐が来て謎の南の島に流れ着くというとんでもない爆笑物の展開が待っている。(ちなみに二人が島で夜を明かすシーンでは『或る夜の出来事』よろしくジェリコの壁が登場したりもする)。

今村昌平作品はこれまで『復讐するは我にあり』『楢山節考』くらいしか見てなかったのでもっと重厚な映画ばかりとる人かと思っていたが、時間も短くあっさり見られるし、とにかく洒落ているのでロマンティックコメディが好きな人には超お薦めです。
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