コーカサス

老人と海のコーカサスのレビュー・感想・評価

老人と海(1958年製作の映画)
3.3
「月は海と女を支配する」

4日にも及んだ老人・サンチャゴ (トレイシー) と巨大なカジキマグロとの死闘は、老人の勝利で幕を閉じたかに思われたが、船にくくりつけたカジキに気付いたサメの大群によって瞬く間に喰いちぎられてしまう。

『武器よさらば』『誰が為に鐘は鳴る』で知られるアメリカ文学の巨匠アーネスト・ヘミングウェイの小説を、『荒野の七人』『大脱走』のジョン・スタージェス監督が映画化。
原作ありきの物語だけに名言も多く、年齢を重ねるほど染みてくる “言葉の宝庫” は流石ヘミングウェイである。

「 (父親が漁師だった) ディマジオと漁をしたいな」

『老人と海』は、老人と海と“ベースボール”の物語でもある。
老人は度々少年に野球の話をする。
ニューヨーク・ヤンキースのジョー・ディマジオ、ニューヨーク・ジャイアンツのジョン・マグロー、ブルックリン・ドジャースのレオ・ドローチャーなど、まだジャイアンツがサンフランシスコに、ドジャースがロサンゼルスに移転する以前の話が興味深い。

そして、老人と海と“少年”の物語だ。
決死の抵抗も虚しく、見る影もなくなったカジキの無惨な骨だけを手に港へ帰って来た老人は、少年のヒーローになり損ねた。
だが、もしかしたら老人にとっては、それも“想定内の結果”だったのでは…と思えてならない。
なぜなら、人生とは“与え失う”その繰り返しを、彼は誰より知っているからだ。

「けれど、人間は負けるように造られてはいないんだ。そりゃ、人間は殺されるかもしれない、けれど負けはしないんだぞ」

逃がした魚は大きい。
しかし、これから“後継者の”少年に与える老人の知恵と経験は、どんな魚より途轍も無く大きい彼の財産となるだろう。

171 2020