よしまる

ロープのよしまるのレビュー・感想・評価

ロープ(1948年製作の映画)
3.8
 マンスリーヒッチコック。月に1本、ヒッチコックをレビューしています。

 今回は、初のカラー作品にしてワンカット風映像にこだわった意欲作「ロープ」です。

 2人の男が友人をロープで絞殺するシーンから始まりまして、エンディングまでワンカットでリアルタイムに時間が過ぎていきます。
 当時はフィルム撮影ですので、1本のフィルムで撮れる時間は限られており、そこはヒッチコック、巧みな編集技術により繋がっているように見せています。
 もちろん、はっきりとカメラが切り替わってしまうシーンもあり、それなりに意識してみるととてもワンカットには見えず、実験としては失敗したのかもしれません。

 しかし、ヒッチコックはこの映画を、ただ技術的な試みとしてやってみたかっただけなのでしょうか。

 いつもの犯人探しではなく、初めから明かされる犯罪がバレるかバレないかという「サスペンス」を、時間の区切りなしで刻一刻と見せていくことでこれまでにないドキドキ感を創出しており、役者の顔色の変化や、タイトルにもなっているロープ、またチェストやグラス、ドアなどの小道具の映し方も手が込んでいて、あちらへこちらへと観る者を釘付けにして離しません。

 さらには初のカラー作品ということで、窓から見えるマンハッタンの風景が昼の明るい空から夕暮れ時、そして夜景へと変化していく様子をダイレクトに楽しむことができます。
 わずか80分の間にこんなに空が変化するはずはないのに、お話に熱中するあまりつい何時間も観続けているような錯覚を起こし、そんな景色の移り変わりさえ無意識に美しいと感じてしまいます。パーティーが終わり、いよいよクライマックスを迎える時にはすっかり夜になり、外のビル群には窓明かりが灯る。気づけば昼間に起こった殺人事件が遠い昔のように感じられるトリックに唖然とさせられます。

 随所に見られるカメラワークの妙技、役者たちの表情の機微などいつも通りのヒッチコッククオリティですが、本人は納得していない様子。しかしカラー映画であることを意識してのワンカット風映像にあえてチャレンジしたことは、賞賛こそすれ、決して失敗などと揶揄できません。カットの積み重ねで見せるサスペンスの常套をあえて覆してでも、実験に終わらずそれを活かした演出を生み出しているのは本当にすごいと思います。

 最後に、この作品を語る時に決して外すことの出来ないのが、ジェイムズスチュアートの名演でしょう。これをきっかけに「裏窓」「めまい」「知りすぎていた男」とヒッチコックの傑作には欠かせない存在となりました。