田島史也

ホリデイの田島史也のレビュー・感想・評価

ホリデイ(2006年製作の映画)
3.3
恋に破れた2人の決別と再生の物語

いちばん感動したのはアボットの祝賀会。老人になると、挑戦を諦めてしまう。物事への諦めが人を老化させると言える。アボットも歩くことを諦めていたし、人が集まらないという勝手な予想を、祝賀会を拒否する口実にしていた。そんな悲観的なアボットがアイリスによって変わり、超満員の会場で祝賀会が開催される。かつての栄光が輝きを取り戻した瞬間である。隠居生活によりフェイドアウトしようとするアボットの人生に有終の美が飾られた。

アマンダとグラハムの物語は、ホームエクスチェンジによる出会いと別れを強調し、アイリスとマイルズの物語はそれぞれを縛る過去の恋愛との決別を強調した。短期間の家交換という設定が効果を持ちつつも、それに頼るばかりでなく、それぞれの恋愛模様が別の意味合いを持ち、普遍的な2つの主題により拡張性がもたらされた点が本作の肝だ。

イギリスでは別れの辛さが情緒的に描かれ観客の感情を揺さぶり、ロスではクズ男とクズ女を退治する爽快な展開により観客の心を晴れやかなものに誘う。中盤、ふたつの物語が停滞した印象を受け少し怠惰であったが、終盤怒涛の展開により、巻き返した印象だ。

本作を通して生まれた2つのカップルが空間的隔たりを超えて、相見えるラストは、男女の関係としての結実と、物語としての結実を同時に意味する実に鮮やかなものだった。

音楽があまりハマっていない印象を受けた。映画音楽としては所々主張が激しすぎる気がする。もう少しテンポ感のある内容なら問題なかったのだろうが、スローテンポなストーリーにマッチするものではなかったように思う。それが中盤、物語の落ち着いた状態の中で観客の没入感を奪う方向に働いてしまっている気がした。

カメラワークがとにかく特徴的。ロングショットでバストアップを捉えたり、ズームインを活用したり。面白いなと思うが、どんな効果を狙ってのものかは正直分からない。

そして何よりジャスパーが最低。オムファタール極まれり。良い悪役だった。


映像0.7,音声0.5,ストーリー0.8,俳優0.8,その他0.5
田島史也

田島史也