torakoa

WISH ウィッシュ/夢がかなう時のtorakoaのレビュー・感想・評価

4.5
良作。物語り方の地力が高い。
1955年、戦没者追悼記念日。母子三人で暮らす一家は、朝鮮戦争で戦死し戦没者墓地に眠ってはいない父のために墓参した帰途、犬を避けた先にいた男と接触事故を起こしてしまう。怪我が治るまで家に滞在することになった放浪の男と犬と一家のひと月が綴られる、家族および疑似家族もの。ちょっとファンタジーあり。
鑑賞後あたたかい気持ちになれると思う。

今は2児の父親となっている主人公が回想する形で始まるのだが、現在の主人公は冒頭と終盤出てくるだけで回想中はナレーションも入れてこないので、非常に落ち着いて観られた。回想なこともすっかり忘れて観てしまっていたぐらい。

最近観たやつがストレス半端なかったのもあって、物語がこれといった過不足なく描写されてることに歓喜、ベーシックなものの良さを感じた。

話運びや語り方、話の伝え方といったものに別段不満を感じたことがない人には凡作でしかないかもしれない。
長らく爆発しそうな不満を抱えてきた私にとっては、相手にわかりやすく過不足なく語る、加減を心得たクレバーな語り手という印象で、褒めたいとこたくさんあった。

描かれるのは多分平凡な人達の日常で、起伏をつけるための派手なテンプレを極力避けたような感じなので、地味に感じられるだろうと思う。私は無闇矢鱈な起伏が苦手で、いい地味は好物ゆえ高評価。

詳細は控えるが、少年が強くなったことの表現が、例えばいじめっ子に勝ったとかそういうのではなく物凄く小さいことで、私はここでテンション上がった。彼が抱えてきたものを払拭したことを示唆し、誰かに勝つことや目に見えることばかりが強さを量るものではないというメッセージを含んでもいるように思えて、おおおーと。
意味ありげに尺取ったりもせず一瞬で、また彼の表情が絶妙で、ほんの僅かな感情の機微として描いてるとこが粋。痺れた。さり気ないって素晴らしい。

小さなエピソードを積み重ねて段階踏んでそこまで運んできてるのもよくて、って普通のことなんだけど、それを疎かにする語り手が多い中、普通の良さに感じ入った次第。
膨張剤を使わず卵の白身を泡立てて膨らませてるという超基本材料のみで作られたマドレーヌにいたく感動したことがあるのだが、何かそれを思い出した。

あと、わからない場面がない。何を言わんとしているのか何でそうなるのか謎な言動や展開がない。話がスムーズに流れていく心地よさは、ここ最近で断トツ。
さらっとした演出で観客にわからせたり、短いシーンの挿入だけで説明したりと、冗長に感じる場面や無駄がほぼなくて厭味がなかった。

不思議は不思議のまま観客の想像に任せる部分もあるにせよ説明不足にはしない、語りすぎない語り方。
ホロリとさせられる場面をお涙頂戴て感じにはしなかったのも好感。悪役らしい悪役は出てこなかったのも好み。

多分スローモーションもあんまり使ってなかったと思う。使いたい場面のために他は控えたのかもしれない。インド映画とかこの作品の爪の垢でも煎じて飲んだらいいんじゃないかな。

但し、例外がありまして。
ファンタジー面には無駄や唐突さ・冗長さを感じるし、わからないとこもある。何で急に別の人が描いたみたいになっちゃうのかなーこの作品?と暫し呆気にとられたりした。野球の場面もやや無駄や違和感あった。
あと一箇所、唐突な音楽で何事?wってなった。音楽はそれほど良くはない。悪くもない。

少し難点はあれど、多少のご都合や謎はあるにせよ極力違和感ないよう努めて描いたんじゃないかなと思う。
ファンタジーなくても話が成立するよう、絵空事ではない生身の人物らしく描くことでファンタジー要素も生きる、と考えてそうな堅実さ。誠実さ、かな。
Q:何をしたいのか? A:物語りたいから。みたいな作品。
伝えたいことが伝わるように話を紡ごうとしている真摯な姿勢に好感持った。大事なことをちゃんと大事にしてくれてる素朴なセンスが素敵な良作。

いかにもアメリカンな熱すぎる観客(多分チームメイトの父ちゃん)のリアクションが面白くて3回ぐらいリピートした。主に欧米人の喜びの場面好きなので。

ぼそっとした犬ベティ・ジェーン
が寝てるパトリック・スウェイジさんに飛び乗って、うっ!ってなるとこ好きだった。3回程リピートした。

弟の子役が走ってって毛氈みたいの敷いてあるとこにのろりと転ぶの笑った。微笑ましい。けどそれでよかったのかw 3回程(以下省略)。彼は特別上手くはない普通の子役感が面白かった。

ちょい役の警官の人、何か見憶えあるぞと気になって調べたら、ニール・マクドノーさんという方で、『キャプテンアメリカ ファーストアベンジャー』に出てたらしい。後でまた出てくるかと思ったらそれっきりだったので、ほんのちょい役向いてない人なのかもしれない。悪役感が強いのかな。

母親役の演技は見事。過不足全くない演技。芝居しようとしてない感じで、素の役者部分が見えない。中の人などいない感、隙のなさ。凄いなーと序盤から見惚れた。
メアリー・エリザベス・マストラントニオさんφ(.. ) 覚えられなそう。

ジョゼフ・マゼロくん出演作ゆえ鑑賞。ややまだ完成形ではないかなという感じがした。こう演技しようという意思がメインの大人二人と比較するとさすがに多少は見える。望むものはないと言う場面はとんでもなく素晴らしかった。きみは本当に凄いな。
成長後の主人公は終盤の登場時の演技してます感に不安になったが、その後は大丈夫だった。よかったよー。

パトリック・スウェイジさんの演技も力抜けてる感じでよかった。割と寡黙で説明の少ない役なので、これは彼なればこそかもと思うところがちょこちょこあった。言外に語るような表現に涙腺弛んだし、優しさ溢れる表情もよかった。
初見の人だと思ってたら『ゴースト』でろくろ回してたようで。お亡くなりになってて残念に思う。素敵演技で楽しませてくれてありがとう。忘れないよ。

Amazonの配信にてレンタル可能。字幕はガヤを一切訳してくれないのが物足りなかった。吹替でも観てみたいなー。DVD化してほしいなー。
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