torakoa

ディア・エヴァン・ハンセンのtorakoaのレビュー・感想・評価

2.7
話にも登場人物にも楽曲にも大作感がまるでないので、オフブロードウェイミュージカルの映画化だろうなと思ってたら合ってたっぽい。

良いと思った点から。

極力撮影現場で実際に歌ったものを使おうとしてること。今実際に歌って動いている、というライヴ感はドキュメンタリーめいた印象にもなり、歌唱力高く表現力も申し分ないライヴ歌唱は、演者の知名度や容姿、登場人物のキャラクター性、楽曲や歌詞の良し悪し・好悪といった諸々スルーで訴えてくる力がある。録音済の歌唱に合わせて動いてる場面もあるが、口パクですよ感はほぼない。
正直、主人公向きの容姿ではないと思うが、役柄に合っててリアリティになってると思うし、これだけ歌えて表現できるならベストなキャスティングだろう。舞台版のオリジナルキャストだったらしくて、なるほど。熟成され役柄が自分のものになっている。

好み外な上に全体的に似通ったテイストの楽曲が多く、ダンスナンバーといったものもないので歌は正直退屈だったが、動きのない歌場面がほとんどながら歌場面に工夫があり、ダレないようにしている。映像化にあたっての工夫が見られるのは好感。元作品を大事に伝えようとする思いが感じられる。

台詞で説明しようとしすぎずに伝えようとしてるのも良かった。親への不満や、コナー一家に疑似家族的な安らぎを得ていたこと等。

エイミー・アダムスの演技。あんな顔で訊かれたら、期待に応えたくなってしまうのはわかる。エイミー・アダムス凄いわと思った。歌うとこは少ない。
ジュリアン・ムーアは顔が怖すぎてどうかなと思っていたが、歌うまかったし歌唱での感情表現もできてて驚きだった。よくある知名度キャスティング(で歌微妙or歌うとこ少ない)かと思っててごめんよー。

一曲だけだが歌い踊る場面は掛け合いもあって楽しかった。コナー役の人、ダンス中の姿勢やポージングがビシッとしててブレがない。止める部位と動かす部位を分けて制御してる感じ。観てて小気味良い動きで何度も観てしまった。体幹すごそう。パントマイムとかもうまそう。彼が歌い踊るのもっと観たいなーと思った。

映像的に盛り上げようがない場面しかない気がするが、画的にきれいな場面多かったと思う。世界は美しいばかりではないけど美しいよ、といった思いを何となく感じた。

現代の若者がテーマで、映画化して後に遺す意義のある作品だとは思う。考えさせられるものもある。共感する人も感動する人もいるだろう。
けど、そういうものと好悪はイコールではない。

私はミュージカルが好きである。私がミュージカルに求めるものは、掛け合い、群舞、大勢によるコーラスといった迫力やテンション上がる場面。そういう嗜好なのであって、それがなければミュージカルじゃないということではない。

個人的見解だがミュージカルとは、台詞や心情が歌で表現され展開・進行していくもの、である。
歌い踊らなければミュージカルではない、楽しくなければミュージカルではない、というのは個人の先入観・固定観念・モットーといったものあって、ミュージカルの定義ではない。
主要キャストにダンスが必須でない有名ミュージカルはある(レ・ミゼラブル、ラ・マンチャの男、エリザベート、ミス・サイゴン等がそうだったと思う。オペラ座の怪人もかなー。映像作品だとシェルブールの雨傘も)。楽しくない作風の有名ミュージカルもある。ミス・サイゴンとか楽しくはない。

この作品が楽しくないのは、嘘で展開していく話が嫌いだからである。騙された側の心情を考えてしまい、嘘を吐く主人公に感情移入し難い傾向が私にはある。スクールオブロックやガリバー旅行記等もそこが気になってあまり楽しくなかった。
嘘が更なる嘘を生んでいき、コメディな訳でもない(コミカルな要素も一部あるが)。本当のことを話そうと思っていたができなかった、という始まりにしては余計な嘘がありすぎて主人公に全く好感持てない。
エイミー・アダムスの演技により、最初の嘘はまあしょうがなかったと思えたが、自分をよく思わせようという意図のある捏造は不快でならなかった。そのおかげで唯一楽しかったコナーが歌い踊る場面がある訳だが……。
矛盾を指摘されたり本当のことを明かすタイミングがありながら現状の心地良さを失いたくないために嘘を通そうとし、私が許容できるラインを何度も超えてくるので好感持ちようがなく、もうとっととバレてしまえ、早く終わってほしい等と思いながらの鑑賞だった。

私がこういう話が嫌いなだけで、ミュージカル舞台の映画化作品としては悪くないと思う。

吹替入り。歌吹替はない。英語字幕入り。レンタルBDに映像特典ある。
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