レオピン

ミスター・アーサーのレオピンのレビュー・感想・評価

ミスター・アーサー(1981年製作の映画)
3.7
テーマ曲は誰でも知ってるけれど映画はスルーされがちだよね。『マネキン』とかさ…

クリストファー・クロスの美声がいきなり冒頭で流れてくる。うっとり聞いているとどこかからガハハ笑いがこだまする。主人公は今日も明日も飲む 飲む 飲む 見事な酒浸り男。
お金には困ることがない富豪のドラ息子でありながらいつも心に満たされないものを抱えている。彼、アーサーの心が分かるのはこの世でたった一人、いつも皮肉をたやさない忠実な老執事だけだった。 

やりたいことをやれ 思うように生きろ

シンデレラストーリーというよりもバカ殿の成長譚。どこかしら『ハロルドとモード』にも近いところがある。アーサーも親の愛を知らない。彼には分裂的な人格がある。親代わりの忠実な家臣を失って初めて自分の人生を歩み始める。主人を諫める老臣のあの姿勢の良さ。英国執事かくやと思わせるが舞台はアメリカだった。

死期の近いホブソンは町娘リンダの家を訪れる。なんてひどい部屋だなんてつぶやきながら。それでも片手にはドレスと婚約式への招待状を携えていく。それがアーサーに、父に対しての精神の独立を勝ち取らせるために行った最後のひと働きだった。病室に見舞うアーサーの作り笑いはせつない。それから大酒飲みの彼が1か月間も禁酒をする。

アーサーとリンダの厩舎での告白。馬がいなないたりする横でのアドリブっぽい芝居にスターらしいかけ合いをみる。
愛に飢えていた男が求めていたのは同じ価値観などではない。それなら退屈なお嬢さんで十分。それよりウソを吐きその場を一緒に切り抜けられるような相手をこそ求めていた。法破りの共犯関係はいつでも楽しいもの。秘密の友達を得られた喜びが息詰まる世界をぶっ壊してくれた。 

『卒業』のように挙式当日の花嫁奪還で終わっても彼らにあった暗さはみじんもない。漱石の「それから」のように浮き世に身をやつし働くことへの怯えもない。
そらそうだ。式場の建物を出たらお祖母ちゃんからは遺産 そしてリンダ どちらも手に入れるのだから。どこにも影がない、二人とも明るい笑顔のままだ。無邪気によっしゃぁ 明日から地下鉄に乗ってやるぞーいで終る。もう80年代 暗いのはたくさん


リンダにライザ・ミネリ 和田アキ子は彼女の髪型を真似てたのか
執事のホブソンにジョン・ギールグッド 続編でホブソンが蘇るとか うう観たい
祖母マーサにジェラルディン・フィッツジェラルド


月の明かりがNYをつつむの歌詞 『月の輝く夜に』を観たあとなもんで味わい深い。
AFIのアメリカ映画主題歌ベスト100では79位
バート・バカラック、キャロル・ベイヤー・セイガーら共作 作詞はピーター・アレン ミネリの元夫 みんな不思議な縁があるんだなぁ

When you get caught between the moonlight and New York City
もしきみが月とニューヨークの街の間ではさまれて悩んでしまったら…

The best you can do
The best you can do
is fall in love
最良の選択はね…恋に落ちることなんだ

愛すべき酔っぱらいを演じたダドリー・ムーア。彼はこの作品もあってかアルコール依存の疑いをかけられたが、実は「進行性核上性麻痺」という難病に苦しんでいた。ミネリもそうだが才能ある芸能人らしく実人生は光よりも陰が大きく見える。いずれにしろ大ヒット曲と共に彼らの輝かしい瞬間がかいま見れる作品。


⇒クリストファー・クロス「Arthur's Theme (Best That You Can Do)」(邦題/ニューヨーク・シティ・セレナーデ)
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