茶一郎

穴の茶一郎のレビュー・感想・評価

(1957年製作の映画)
4.2
 痛快。愉快。「チキチキ 京マチ子七変化〜!!」といった具合。今作の当時の予告編を見てみると「なにを始めるか分からないと評判の市川崑が、しゃれた感覚と奇抜なアイデアでみごとに描く『京マチ子の七変化』」と実際に言っている。
 今作『穴』は、市川崑監督とその奥様・和田夏十共同のペンネーム・久里子亭(クリステイ、言うまでもなくアガサ・クリスティを文字っている)がウィリアム・ピアスンの『すばらしき罠』を翻案したコメディ・ミステリーで、後に「東宝金田一シリーズ」でその実力を遺憾なく発揮するミステリーマニア作家としての市川崑の原点的作品と言える。
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 物語は「一ヶ月行方をくらまし、発見されなければ50万円を頂く」という賭けをする京マチ子扮する女性記者が、彼女を利用しようとする銀行員たちの犯罪に巻き込まれていくというもの。姿を消す際に様々な変装をする京マチ子が、予告の「京マチ子の七変化」に当たる。見所の一つに、この京マチ子の凄まじいコメディエンヌとしての才能、もう一つはやはり恐ろしいスピード感で繰り広げられる、まさに「なにを始めるか分からないと評判の」市川崑の実験的かつモダンな映像センスに尽きる。
 翻案元の主人公の男性を女性に置き換えたことで、女性を見くびっている男共を逆に利用する京マチ子・女性という構図が浮かび上がる。これは、同ジャンルでは『黒い十人の女たち』など「主体性のない(もしくは愚かな)男性と強い女性」という配置として市川崑世界に一貫するものである。賢い女は吠えずに尾っぽを振るというか、コチラを舐めている男をこれでもかと思うほど利用する女性の痛快さであった。
 一応、あの元東京都知事で暴走老人こと石原慎太郎氏ご本人が「♪DREAM」という謎曲を歌う謎シーンがあるということを記載しておきます。【短】
茶一郎

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