ひでやん

灼熱の魂のひでやんのレビュー・感想・評価

灼熱の魂(2010年製作の映画)
4.2
母の遺言に従い、まだ見ぬ父と兄を探す双子の姉弟を描いた至高のミステリー。

壮絶な人生を生きた母と、その足跡を辿る娘。過去と現代を巧みに交錯させながら見えない目的へ向かう。

出産し、大学に通い、南部へ向かった母ナワルの人生はレバノン内戦の真っ只中にあった。異教徒同志の武力闘争が激化し、報復の報復という負の連鎖が続く。

重苦しい時代背景が全編を支配し、心が和む時間などなかった。村を焼き払う場面や拷問の場面に直接的な残虐描写はなかったが、武装集団が難民バスを襲撃する場面は怖ろしかった。

女、子供も容赦なく射殺されるが、そこには個人的な恨みも損得もない。敵か味方かの単純な二元論による皆殺しで、異教徒を淘汰する。

スカーフを頭に巻いてバスに乗り、十字架を見せて救われるナワル。スカーフと十字架、それだけでイスラム教徒とキリスト教徒、敵と味方、生と死が切り替わる事が衝撃だった。

この作品は戦争映画ではない。内戦はテーマではなく「背景」であり、その社会情勢がもたらした悲劇を描き、重厚なミステリーに仕上げている。

残酷だ…なんて残酷な真実だ。1+1の答えに呆然とした。
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