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犯罪河岸の河のレビュー・感想・評価

犯罪河岸(1947年製作の映画)
3.8
ナチスドイツの占領下でドイツ資本で映画を作っていたことと『密告』でのフランスの描き方が問題になったことで映画が撮れない状態にあって、そこからの4年ぶりの復帰作で商業映画らしい。だからか、『密告』にあったドイツ表現主義的なテーマはなくなっている。

ムルナウ的なカメラ移動、モンタージュの気持ちよさとフリッツラング的なプロットの同居した映画で、加えて、1シーンしか出てこないモブ含めて全員にコメディタッチでありつつも血が通っているような人物造形がある。

そのテンプレに陥らない人物造形は映画の主軸となっていて、嫉妬深い夫、浮気がちな妻、夫の魅力的な愛人、下層の人々の敵である警官など、登場人物達が映画でよく用いられる人物設定に始まり、その設定通りに人物間で軋轢が生まれ、その中でその設定で起きるだろう事件が起こる。しかし、映画が進むにつれ、登場人物たちはその設定を裏切るような面を見せ始め、人間として立ち上がってくるようになる。そして、その事件を通して互いにその役割としてではなく人間として交流するようになっていく。

事件の真相自体は警官の台詞にあるように馬鹿げたものとなっていて、サスペンスというよりは事件自体をマクガフィンとしてそれによって動く登場人物間のドラマが主軸になっているように感じられる。

そのドラマがムルナウを参考にしただろう音楽的なカメラ移動とモンタージュによって展開していくのでかなり見ていて心地よい。何度かある警察の訪問が劇場でのショーやその練習と行き来しながら描かれるシーンは、その流れるような切り替えに加えてそこでリズムよく出てくる人々が全員魅力的なこともあって見てて本当に気持ち良い。

事件が起こるまでの前半から、ドタバタコメディ的で引き締まったハイテンションな中盤を経て、終盤のクリスマスイブの夜の警察による泥沼化した尋問で、一気に時間感覚が弛緩していく。そのギャップが非常に良い。そこから、クリスマスに浮かれる人々、窓から見える雪、全員が役割的には残らないといけないけど内心早く帰りたいだらだらした感じ、その中で七面鳥抱えて帰っていく警官のボス(そういう人であることが事前に描かれている)、だべってる中扉が開いたら一気に立ち上がる記者たち、そして事件の解決と主要人物同士の関係性の解決からクリスマスのラストシーンへと収束していく感じ、とても良い。

製作が決まった段階で原作の本が手に入らなくなり、記憶を頼りに脚本を書いたという背景があるらしい。おそらくそれで骨組みを元に人物を想像して書いたからこそのこのテンプレに沿わない血の通った人物造形なんだろうと思う。夫の愛人に見えた女性が実は妻に思いを寄せていたというのも原作にない設定らしい。

『密告』を見た時にドイツ表現主義、特にフリッツラングとクロードシャブロルの間にいる監督のように感じたけど、この映画にはフリッツラングになくてクロードシャブロルにはある人々の描き方がある。ドキュメンタリー的な方法で市井の人々を撮ったのがヌーヴェルヴァーグだとしたら、フラハティからムルナウ、ジャンルーシュ、ゴダールというドキュメンタリー的な方法の流れが別にあるんだろうか。

キャラクター的な良さがあり、キャラクター間の関係性がアクションに沿って展開する、その背景に音楽が背景に流れ続けていて、陽性のトーンが根本にある映画と思えば、今のクリスマスムービーの先駆けみたいな映画なのかもしれない。
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