くまちゃん

犯罪河岸のくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

犯罪河岸(1947年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

アンリ・ジョルジュ・クルーゾーが戦後初監督をつとめたサスペンスドラマ。
クルーゾーの長編第一作「犯人は21番に住む」と同様原作はスタニスラス=アンドレ・ステーマン。

承認欲求の強い若い流行歌手ジェニーは自身の現状に満足できていなかった。
嫉妬深い夫モーリスにも不満が募り、夫に隠れ好色な実業家ブリニヨンとの会食へ向かう。
ジェニーの外出先を知ったモーリスはブリニヨン宅へ乗り込む。しかし、ブリニヨンは死んでいた。

倒叙形式のような趣向が見られるが、直接的な殺害描写は無く、加害者が殺人を犯したと思い込むことで観客を欺く当時としては秀逸なプロット。

ジェニーを庇おうとするモーリスが徐々に追い詰められ疲弊していく様はなんとももどかしい。
アントワーヌは状況と証言を照らし合わせ合理的に推測を構築していく。
そのロジックが指し示す先にいるのがモーリスでありジェニーでありドラである。しかし、見落としていたピースを掬い上げることで当事者も気が付かなかった真実の扉が開かれるのだ。

写真家のドラはモーリスの幼馴染であり、ジェニーから二人の仲を疑われる。
愛し合っているのではないかと。
だがジェニーがブリニヨンを殺害したと告白した際には躊躇なく現場に侵入し、証拠隠滅、ジェニーを傷つけたブリニヨンの遺体を足蹴にする。
アントワーヌに「彼女が好きなんだな」と問われドラは肯定した。
それは友人として好きなのか。
それだけならばこのやりとりは不必要だろう。
ドラは同性愛者なのか。
アントワーヌは続ける。
「君は私に似ている。女性に縁のない所が」
アントワーヌの女性に縁のないというのは単に異性への苦手意識ともとれるが、アントワーヌ自身が同性愛者であるともとれる。
アフリカの少年を息子として受け入れたのも植民地や戦災孤児への同情からではない、男としての父性でもない、子供に対する慈愛の心、母性が発露したからなのではないか。

去っていくアントワーヌと子供のラストカット。「密告」とほぼ同じ構図であるがこちらの方は清々しくその背を見送ることができる。
くまちゃん

くまちゃん