めしいらず

処女の泉のめしいらずのレビュー・感想・評価

処女の泉(1960年製作の映画)
3.8
人はどうしてこんなに簡単に感情や欲望に振り回され罪を犯してしまうのか。神はどうして人が過つのをそのまま看過するのか。敬虔なクリスチャンの地主が教会に愛娘を使いに出す。その道すがら彼女を騙して接近し凌辱し殺した羊飼いの三兄弟。それを知った父は怒りに任せて彼らを惨殺し復讐する。そしてすぐさまそのことを悔い、神に赦しを請うのだ。起きてしまった悲劇に囚われ人それぞれに自分を責める。後ろめたさを感じるのは善き心と弱き心に揺れる人間の表れだろう。父も、母も、娘に同道していたお付きの女も、罪に加担しなかった三兄弟の末っ子もそれは同じ。あの時ああしていれば、ああしなければ、あの娘は、この愚かな羊飼いたちは、きっと死なずに済んだのに…。己が手を血で染めずに済んだのに…。父は神を責めずにいられない。神は沈黙したまま何も答えない。それでも祈りに膝を折り頭を垂れる以外に救いを求める術を持たない人間の弱さ。娘の骸を抱きこの場所に教会建立を誓う父。抱き上げた骸の下から清冽な泉が湧く。その奇跡は神が何を思し召した故かは誰にも判らない。だが罪深き人間たちが神の存在を信じられるだけの霊力を湛えていた。
ベルイマンの最も著名な作品の一つだろう。強姦殺人とその復讐の生々しく痛ましい描写。それとは対照的に、娘らが野を水辺を馬で行く場面、印象的な枝打ちの場面(「サクリファイス」に影響を与えていそう)の画の神秘的な美しさ。カメラマン、スヴェン・ニクヴィストと監督ベルイマン、二人の名匠の黄金タッグ最初の作品であるらしい。
再鑑賞。
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