こたつむり

4番目の男のこたつむりのレビュー・感想・評価

4番目の男(1979年製作の映画)
3.3
我らがヴァーホーベン監督の痛快宗教サスペンス。

過剰な出血。飛び出した眼球。
作品の中で最も活躍する“ぼかし”。
汗やら唾液やら夥しい汁気が薫る性愛表現。
本物と書いて“ガチ”と読むほどの男同士の接吻。と、表面だけ眺めれば、いつものヴァーホーベン節(漢字で書くと変態)なのですが。

実は、
奇怪な予知夢、
暗喩に満ちた表現、
詩的センスに満ちた台詞、
視点が変わると魅せる顔も変わる構造。
と、映画通が観たら喜ぶ仕組み満載の挑戦的な作品なのです(実際に批評家さんたちも気に入られたようで、ロサンゼルス批評家協会の外国映画賞を授与されています)。

しかも、テーマは宗教。おお、なんとも高尚な。女優さんに汚物を被せたり(『ブラック・ブック』)、下着を穿かずにミニスカートで足を組み替えさせたり(『氷の微笑』)、おっぱいがおっぱいでおっぱいだったり(『ショー・ガール』)…そんな作品を作ってきた人の作品とは思えません。いや、もしかしたら、本作の方向性こそが監督が目指していたものであり、下俗で露悪的な作品群はスポンサーの要望に応えたものなのかもしれませんな…って、それは流石に違うかな。

まあ、でもですね。
正直なところ、無信心な僕には難しい作品でした。カトリック信者だと言いながらも不徳の極み(離婚経験あり、アル中、同性愛嗜好、窃視行為、自慰行為…等)である主人公が、次第に追い込まれていく…という構図は理解できるものの、そこに感情を添わせることができないんですね。これが日常に宗教が根付いている生活を送っている人ならば、色々と思うことがあると思うんです。まあ、そういう方は、冒頭の主人公が堕落していることを示す場面(キリスト像を掃除しないから蜘蛛の巣が張ってしまい、蜘蛛が蠢いている)で目を三角にするのかもしれませんが。

まあ、そんなわけで。
当時(1983年)、日本では『南極物語』で「太郎、次郎が生きていた!」なんて盛り上がっている中、オランダではこのような作品が上映されていた…と思うと口が曲がる思いなのですが、それでも監督のことが大好きな人は是非とも押さえておくべき作品だと思います。それにしても、やはり人間は多面的な存在なんですねえ。あの、あの、あの監督がこういう作品を撮るんですものね。いやぁ。人間って、映画って本当に面白いですね。
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