Azuという名のブシェミ夫人

ロスト・チルドレンのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

ロスト・チルドレン(1995年製作の映画)
5.0
愛するジャン=ピエール・ジュネ作品再見フェス、絶賛開催中でございます♡
以前レビューしていましたが、改めて再レビュー。

どこの国のどの時代とも分からぬ世界の片隅。
寝ても夢を見ることが出来ない男が、純粋な子供達の見る夢を奪おうと『一つ目教団』に誘拐させて集めていた。
サーカスで怪力を披露する大男ワンの幼い弟もある日誘拐されてしまう。
弟を救う為に動き出したワンは、孤児たちが組む子供強盗団のリーダーである少女ミエットに出会う。
ひょんな事から二人は協力し合って、弟の救出へ・・・。

あぁぁぁぁぁ!!!これこれ!!!!
これだよ!やっぱりジュネは♡♡♡
徹底的な世界観の構築が素晴らしく、美しくて不気味。
『デリカテッセン』で強烈に惹きつけられた不快感ですら魅力に昇華させてしまうジュネ&キャロコンビに、今作で完膚無きまでに叩きのめされた当時の私。
久しぶりに見直したら何だかまた新鮮で、自分でも覗きこんだことの無いような深淵の未知の領域に脳内トリップ。
子供が見たらトラウマになるかもしれない、意識下に間違いなくインパクトでもって種を植えつけられる作品。
物語の核である『夢』のように、子供の頃に繰り返し見ては泣いていた悪夢を連想させる不気味さ。
言い知れぬ不安に怖くなって両手で目を覆うけれど、どうしても気になって指の隙間から覗いてしまう妖しい美しさ。
この雰囲気に陶酔し、毒にどっぷりと浸るだけでも価値があると思える。

美術やファッションが細部まで丁寧に拘って描かれていて、私の心をくすぐりまくる。
スチームパンクとか、あとは夜の工場なんかに萌える方はこの世界観最高じゃないですかね?
衣装はジャン=ポール・ゴルチエが担当していて、もぉーーーう・・・ねっ♡♡←
オープニングにも関連してクリスマスカラーである緑と赤がテーマカラーになってて可愛い!
でも実は緑と赤ってぶつかるし、その二つを組み合わせるのって冷静に考えるとトチ狂ってるように見えるんですけれど、この世界観にバッチリ合うんですよね。
不気味さと美しさの相反する存在が混在している作品を象徴するようなカラー。

ロン・パールマンが演じる大男ワンは、身体は大きく屈強なれど知能は純粋な子供のよう。
対してジュディット・ヴィッテが演じる少女ミエットは、見た目は子供でありながら中身はクールで大人びている。
体力的にはワンがミエットを助けているものの、どこかミエットの方がワンを慈しみ守っているように見える。
それがとても良いバランスで、二人を繋ぐものが紛うこと無き“愛”であることを感じさせるのです。
ロリコンだなんて言葉は撥ね退けるような、ミエットの魅力が素晴らしい♡
それでも実際はまだ子供であるミエットが唯一涙を見せるのはワンの事でだった。
ワンを想ってある決意を口にした時の彼女の表情は大人の女そのものであり、心の芯の強さが窺えるし、ワンへの深い愛情に溢れていてグっと来てしまう。
ジュディット・ヴィッテはすぐに女優業を引退してしまったようですが、『レオン』のナタリー・ポートマンのように、少女のある神がかった一時期をこうして映像に残せたことが奇跡的に思えます。

そしてそして、欠かせないのがドミニク・ピノン!
一人でもインパクト大なのにクローン人間で何人ものドミニクさんがワラワラ出てくるので、食傷しないようにね♡笑
あと、常に我関せずな小さい食欲モンスターの弟も可愛すぎる。

夢を見ることが出来ない為に、人の倍以上のスピードで老いてしまう男。
物語では寝る時の『夢』そのもので表現されていますが、これは『夢=希望、想像力、純粋な心』を象徴しているのかもしれません。
そうした『夢』を見ることを止めてしまった時、人は精神的に老いていくのでしょう。
『ロストチルドレン』・・・果たして攫われ迷子になったのは幼い子供達でしょうか?
もしかするとこれは次第に子供の心を失って、人生の迷子になりかけている私達大人の物語なのかもしれません。