よしまる

ハリーの災難のよしまるのレビュー・感想・評価

ハリーの災難(1955年製作の映画)
3.6
 マンスリーヒッチコック、月に1度はヒッチコックを観よう!のお時間です。

 今回レビューするのはヒッチコックの数少ないコメディ映画のひとつ、「ハリーの災難」。
 「裏窓」「泥棒成金」と続いたジョンマイケルヘイズとの3作目のコラボでどれもコメディ要素はあるものの、純粋に笑いを取りに来ているという点では本作はやはり異質だ。

 禁猟区である森の中、猟銃でウサギを狩っていたおじさんが、頭を撃たれて倒れている死体を発見するところから事件は始まる。
 ところがいつものヒッチコックのようなサスペンス感はまるで影を潜め、通りがかりの医者は死体に蹴つまずいても知らんぷり、裸足の乞食は死体からピカピカの靴を手に入れて大喜び。なんとも牧歌的な印象の殺人現場につい微笑んでしまう。

 そして登場するのがシャーリーマクレーン。堂々たる映画デビュー作、当時まだ21歳とは思えない貫禄。イーディスヘッドによるワンピースも魅力的な快活な女性を演じてゴールデングローブ新人賞を獲得している。
 不本意とは言え一度は結ばれた自分の夫をこんなに邪険に粗末に扱ったヒロインはかつて居ただろうか笑

 ハリウッドに来てからというもの、超一流のビッグスターばかりを起用してきたヒッチコックだけれど、本作はあえて無名の俳優を揃え、こじんまりしていながらストーリーテリングと演技力だけで魅せる!と意気込んだ実験作となっている。
 実際、華やかさはないもののテンポ良く楽しむことができ、死体の扱い、ショットの巧みさ、アングルの面白さなど、映像で笑いを取ってくるのがお見事。

 テーマも何もなく、ただ右往左往する人たちの勝手な理屈も可笑しいのだけれど、なによりいつもと違うのは、いわゆる「巻き込まれ」役が主役でもなくヒロインでもなく「死体」だということだ笑