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女王蜂のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

女王蜂(1978年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

昭和27年、伊豆天城の月琴の里の旧家大道寺家の時計台で、一人娘の智子の求婚者が殺された。その直後、探偵の金田一耕助が、京都の弁護士に依頼され、事故死とされた19年前の一件の真相を探るために大道寺家を訪れるが、大道寺一族に脅迫状が届いていた事が明らかになり、それが連続殺人事件の幕開けとなっていく…。

市川昆監督と石坂浩二の金田一耕助シリーズの4作目。
息のあった出演陣との演出も円熟味を増しているが、シリーズ1の変化球でもある。
進化への模索と言うべき監督の更なる実験精神に溢れた作品。

まず、映像が変化した。
ロケの大半は木村大作による撮影らしく、シリーズでは珍しく鮮やかな色彩がそこかしこに感じられる。
屋敷内のモノクロ調の映像と対照的でメリハリがついている。

配役にも変化が。
高峰三枝子、岸恵子、司葉子と過去3作の犯人役が揃い踏み。配役をパッと見て誰が犯人か分からないような工夫がある。
ちなみに本作は中井貴一の姉・中井貴恵のデビュー作だが、初めての映画でヒロインに抜擢とはなかなか大きな冒険と言える。
そのため、本作はシリーズで最も女優陣が華やかに美しく描かれている。
秋の京都の茶会のシーンなどは紅葉の景色に負けない美の競演である。

本作はシリーズ随一の豪華キャストで男性陣もなかなかの顔ぶれ。
監督の常連組の女優陣に混じり、引けをとらない大道寺銀三役、仲代達矢の存在感は流石である。
伴淳三郎の東北訛りの巡査も味がある。
ヒロインを巡る若い男性陣に、ニヒルな沖雅也や、1970年代前半の特撮ヒーロー番組主演者が脇で顔を揃えている。

事件の描写にも変化が。
連続殺人事件は、これまでのような見立て殺人や派手なトリックが無い。
これまでは遺体を発見した瞬間がショッキングな描写だったが、遺体が時計台の歯車に巻き込まれたり、青酸カリで殺される瞬間だったり、殺人の前後を生々しく描いている。

そして金田一にも変化が。
クライマックスの謎解きでは、豪華キャストが一堂に会する中、熱く語り出す金田一は、舞台劇か法廷劇の様相を呈す。
容疑者全員の前で犯人を暴く金田一の姿はポアロさながらである。
ここまで強気の金田一の語りは初めてだ。

そして、これまでのシリーズの定石を崩し、「犯人は美しい女性」ではない!
この変化は大きい。

事件解決後に犯行の動機が判明するドラマも丁寧に描かれている。
犯人の人生が、幼少期から愛と憎しみの連続であったことを憐れに思う。
ついでに言えば、等々力警部がラストに金田一を認めるという心境の変化もシリーズを見てきた者はニヤリとしてしまう。

おどろおどろしいシリーズの雰囲気に慣れたファンには物足りないかもしれないが、豪華キャストの競演に酔いしれ、かつ市川昆監督の挑戦と実験に溢れた作品。
見応えは充分にある。
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