カテリーナ

新幹線大爆破のカテリーナのレビュー・感想・評価

新幹線大爆破(1975年製作の映画)
4.0
町山智浩×春日太一 映画塾『緊急事態 ! 日本列島大パニック』より

遠くに見えるいくつもの丸いライトが揺らめく夜の空港に駆けていく男の後ろ姿は
夜の街をドラマチックに映し出した
孤独な男たちの闘いを描いた『ヒート』のロバート・デ・ニーロの背中と被る

「新幹線に爆弾を仕掛けた」と脅迫の電話が入る
いつものいたずら電話と違うのは
札幌の貨物列車にも同じ爆弾を仕掛け
実際にその列車は爆弾により大爆発をし
木っ端微塵に砕ける
捜査当局と国鉄の運転司令室に緊張が走る 1500人の乗客を人質にとり大金を強奪する手口は極悪非道だけど 警察のメンツや嘘で固めた捜査当局や国鉄役員よりも何よりも仲間の身を案じ人間味溢れる犯人グループに嫌でも感情移入してしまう
それもそのはず 主犯格はあの高倉健が演じるのだ そして仲間は工員の大城浩(織田あきら)と元過激派の古賀勝(山本圭)である 任侠映画ばかりにウンザリしていた(春日太一談)健さんが初めて普通の人 精密機械工場の元経営者である沖田哲男を演じる

東京→博多行きの新幹線に
時速80キロを下回ると爆発するという
恐ろしいニュースが駆け巡る
乗客は勿論 乗客の家族や警察 当時国鉄の
運転司令室は未曾有の事態に何とか解決策をと 右往左往する
司令室を取り仕切る宇津井健演じる司令長の倉持が立ち上がり 冷静に対処して行く
事実を知った新幹線の運転手の青木演じる千葉真一がパニックになるのを宥める
「青木君!落ち着くんだ」の台詞がしばしば流れる その度に関根勤の物真似を思い出したり 『赤い疑惑』の白血病の百恵ちゃんを励ます姿を思い出したり 笑
宇津井健は名優だけど どちらかと言えば
キャラクターありきで 役柄が医者であっても 運転司令長でもあっても 宇津井健の顔でしかない 職人肌の俳優だなと今更ながら思う

パニックになるのは運転手の青木君だけでなく乗客は更に目を血走らせ 発狂寸前である
妊婦はショックのあまり産気づく 乗客の中に居合わせた女医が手当するも母胎も赤ちゃんも危険な状態である
会社の命運をかけた大事な商談を控えてる男はアタッシュケースを片手に切羽詰まって札束を乗務員に握らせ 次の駅で降ろしてくれと懇願する 日本のサラリーマンの悲哀
乗客1500人と同じ数だけドラマがあるのだ ここでは恐ろしい集団心理の波に呑まれぬよう必死で宥めたりすかしたり
打開策を思案する司令室と乗客との間で板挟みに合う乗務員たちが気の毒で仕方ない

新幹線や鉄道や駅などの場面では協力を拒まれた国鉄に変わって 西武池袋線が全面協力 当時学園の為の駅ということで大泉学園前が作られたが 一向に学園はできず 東映撮影所だけでもっていたので熱烈歓迎したという裏話は春日太一氏のお話し ふむふむ成る程ね〜

原作や原案もなく一完全オリジナルの大作を創り上げたこの作品 今や続編や原作のあるお話やリメイクだらけの作品しか作れなくなったハリウッド
に比べ 当時ふとしたアイデアからお話しを膨らませた製作陣の力量は日本の誇りだ
新幹線は列車の中で何よりも速い乗物と謳われる一方で 安全性も確保していた それはどんな些細な事態に陥ってもすぐ様安全装置が働いて停止できる技術 ならば 止められなくなったらどうなるだろうから企画が始まった 監督の佐藤純彌はラジオ好きでラジオの周波数が一定の数値になると止まるという事を知っていて
それを新幹線に応用し一定の速度に達すると機動装置が働くというアイデアを組み合わせて出来上がった (春日太一談)

後々『アンストッパブル』やお馴染み『スピード』などの作品を産み出す多大な影響を与えた今作は日本は元より 外国、特にフランスでは大ヒットした パニックアクション映画の大作として認知されているのだ
カテリーナ

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