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山猫のTakaCineのレビュー・感想・評価

山猫(1963年製作の映画)
5.0
誇り高き老公爵の諦念。

本物の輝きに満ちた贅沢な187分。審美眼を養うのに最適なヴィスコンティ芸術の最高傑作。

大スクリーンで観たいと思っていたので、この度、Bunkamura ル・シネマで「山猫 4K修復版」が鑑賞できて大満足(*^▽^*)!
溢れんばかりの名画の風格に痺れました。

【ディテールまで本物の輝き】
自身がミラノ伯爵家出身のヴィスコンティだからこそ、細部まで描写できた本物の貴族の生活。

冒頭、サリーナ公爵家で行われるミサ。風になびくレースカーテンの繊細な動きにさえ高級感が漂う。調度品、衣装、小道具など全て当時の物を再現した本物の空気感!衣装や小道具は、可能な限り当時の製法で復元されたそうです。

クライマックスの有名な舞踏会シーンは、ヴィスコンティ家の衣装部屋から持ち出したものを使い、総勢240人のエキストラのうち、本物のシチリア貴族の末裔が約80人ほど出演、パレルモにあるガンジ宮で36日間を費やして撮影されました。人や蝋燭の熱気、香水、扇子、おしゃべり…豪華で些か猥雑な舞踏会シーンは、絢爛豪華な美しさと現実逃避した愚鈍な姿「まるで猿」を晒して圧巻でした。

更に、貴族の誇り高さを嘲笑うように、

屋敷を走ると埃が立つし、馬車に乗れば全身が土埃まみれになるし(埃まみれでミサを受ける姿は亡霊のようでした)、舞踏会では貴族たちの足元で羽飾りやゴミが、踊る動きに合わせて生き物のように蠢いています。舞踏会列席者用の尿壺が、大量に置かれた部屋を見た時は凄くギョッとしました。

貴族の華やかさと対照的な、浮世離れした世界の虚しさ、権力の衰え、時代遅れの思想、忍び寄る老い、その果ての盛者必衰まで克明に感じさせるディテール演出はさすがです。

冒頭の庭で死んでいる兵士の姿がグイド・レーニ作「聖セバスチャン」を連想させたり、義勇軍の戦闘シーンはリアルさよりも絵画的な美しさを重視していたり、全編がヴィスコンティが思い描く映像美学に貫かれていました。

【魅力的な配役】
今では素晴らしい配役と言えますが、きっと当時としては異例の配役だったでしょう。

主役のシチリア貴族サリーナ公爵は、なんとアメリカの大スターだったバート・ランカスター。本人を含め周りは、ニューヨーク出身のアクロバット上がりの俳優に公爵が務められるか心配だったそうです。他の候補者は、マーロン・ブランド、ローレンス・オリヴィエ、スペンサー・トレイシー、アンソニー・クイン。

"ある時は専制的で乱暴で激しく、ある時はロマンチックで善良で物わかりがよく、そして時として愚かでさえあるが、なによりも、神秘的である"といった複雑な性格を兼ね備え、監督が会った中で、いちばん神秘的だったのがランカスターでした。

サリーナは思慮深く、公明正大、快活な男だが、一方で娼館に通ったり、狩りをしたり、ダンスをすれば嫉妬させるくらい格好良い身体能力を発揮します。重厚な雰囲気と野蛮さとセクシャルさが必要なところを考えると、知的で感受性豊かでありながら型破りなキャラクターが似合う、ランカスターは適任ですね。憂いを含んだ深い眼差し。素晴らしい名演でした。

余程気に入ったのか、ヴィスコンティは再度『家族の肖像』でも彼を主役に迎え入れています。

衰退していく貴族を体現するのがサリーナ公爵なら、台頭する新しい存在は公爵の甥タンクレディです。時代の波に乗ろうとする若い野心家を、当時、実際に大スターに登り始めたアラン・ドロンが演じています。本当に目が覚める美男ですが、どこか愛嬌と卑しさがあって計算高い印象があります。

それにしても、この映画、アラン・ドロンを綺麗に撮りすぎます!カラーでも白黒でも、美男は美男ですね(^o^;)

タンクレディは公爵の娘コンセッタに惚れられていますが、新興ブルジョワジーの娘アンジェリカが出現して状況が変わります。貞節で物静かなコンセッタ(ルッチラ・モルラッキ)と情熱的で誰もが驚く美貌のアンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)。

アンジェリカの初登場シーンは『めまい』のキム・ノヴァクの初登場シーンに匹敵する美しさです!とても大好きなシーン(#^.^#)

舞踏会での白いドレス姿の眩い美しさ!ずっと目で追っかけていたいですね♪

公爵の晩餐会で、タンクレディの淫らな暗示に下品な高笑いをするアンジェリカ。その瞬間、一同が当惑して思わず席を離れるシーンは忘れられません。あの美貌で下品な笑いのパンチ力は凄まじかった!

唇を噛む、上目遣いをするなど、まるで猫がご主人様に愛想を振り撒いているような仕草が凄く似合ってましたね。いやあ、カルディナーレ、綺麗でしたね!

美しさと卑しさが同居した個性。ドロンとカルディナーレの役回りです。それは生きる逞しさ。格式や品の良さよりも、自分の好きなように生きる強さ(根性)に溢れた若い2人。老いを感じ、時代の変化を傍観するサリーナとは対照的です。

若さと老い、自由と戒律、平民と貴族、生と死…様々な対比を通して描く、貴族階級の栄華と終焉。

その他、実力派のバイプレイヤーたちが物語に厚みを加えます。

リナ・モレリ(サリーナ公爵夫人)とパオロ・ストッパ(カロージェロ)は劇団を結成してヴィスコンティの舞台演出を受けたベテランであり、セルジュ・レジアニ(チッチョ)やロモロ・ヴァリ(ピローネ神父)はコメディリリーフとして、物語に笑いと真実を告げる役目をしています。ジュリアーノ・ジェンマが出て来て驚きました。

洗面台の鏡に映る自らの姿に涙を流すサリーナ。夜通し行われる舞踏会の虚しさに嫌気が差し、醜悪な姿をいつまでも残すくらいなら、いっそ滅んでしまうのも自然の理。サリーナが見つめる絵画「義人の死」(グルーズ作)みたいに、いつかこんな感じで死ねるのだろうか…

ニーノ・ロータの哀愁漂う音楽。

美しく甦った映像の世界遺産。
第16回カンヌ国際映画祭で最高賞(パルム・ドール)受賞。
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