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オッペンハイマーのTakaCineのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
【核兵器のある世界で】
「原爆の父」と言われた理論物理学者の半生と苦悩。

正直、オッペンハイマーという方を、本作を観るまでは全然知りませんでした(不勉強です💦)

人類史上最悪の武器を作ってしまった科学者の後悔は、どれほどのことなのか?と思って鑑賞しました。

日本では劇場上映を「2024年3月29日」とアメリカでの上映(2023年7月21日)より遅くしたのは、その題材への配慮からと推察されますが、実際に賛否両論な意見が出てますね💦

《人類の大罪》
鑑賞して思ったことは、あまりにも大きい罪を背負うと、人は冷静に判断したり認めることはできない…のかもしれません😰

科学者としての視点(研究で謎を突き止めたい、求められる開発を完成したい)、大義(強力な兵器を見せて戦争を"無意味"にしたい、他の国よりも早く原爆を開発したい)といったオッペンハイマー側の想いがありながら、実際に最終兵器を手にした人類が下した決断は…

今回「戦争を"無意味"にするために、人類史上最悪の武器を作った」という原爆開発の動機を知りましたけど、ちらつかせるだけでなく、実際に軍事利用されることは想定できなかったのでしょうか?

そこはどう考えていたのか、鑑賞後も大きく疑問が残ります😰

オッペンハイマーの「天才科学者の功績」と「プロメテウスの苦悩」を描いた本作は、難しい題材を描いたノーラン監督のチャレンジ精神や完成度を考えればアカデミー賞7部門受賞も理解は出来ますが、辛辣な意見としては(語弊はありますが)「アメリカが描いた、アメリカ人のための核兵器映画」と思ってしまいました。

1人の科学者の物語としては、人類を滅亡させる悪魔の兵器を作ってしまった"罪"を背負う「苦悩」、同時にアメリカを戦争から救った「功績」という相反する評価を背負って、ズタズタに翻弄されるオッペンハイマー(キリアン・マーフィが巧演)のジレンマを描いているところは、今までなかった視点として高く評価できると思います。

その後、彼は水爆開発には意義を唱えて、「赤狩り」で公職追放までされています。

彼1人が開発したわけではないですが、国家プロジェクト(マンハッタン計画、1942年~1947年)として大々的に推進して原爆を開発し、実際に広島(1945年8月6日)と長崎(1945年8月9日)に原爆投下、多大な死者数(合わせて、約50万人以上※)が出ました。

※現在も被爆の後遺症に因って、お亡くなりになる方が増え続けています。

消すことができない大罪を犯したオッペンハイマー(1967没)やアメリカという国自体が、罪を自覚し認めることは「生易しくない」と本作が教えてくれました。

「人類は自らを絶滅させる力がある」

プロメテウスの苦悩とは、人類の環境を変えてしまうほどの力を生み出すことが出来、その力を平和を維持するためにも、破壊するためにも利用できること。

全ては、扱う人類の心根次第なのです。

《核の脅威》
核の脅威を視覚的に訴えるため、核実験(トリニティ実験、1945年7月)による閃光、爆風、キノコ雲を綿密に特殊効果で演出し、今回はIMAXで鑑賞しましたが、まるで核爆発を遠くでも体感したようなショックがありました😰(怖さを感じました)

と同時に、核実験が成功した後の科学者や軍人が"実験成功"を称える姿に、凄く違和感というか…日本人として不快な気分になってしまいました😰

広島や長崎の原爆投下で戦争が終結したという見方も、原爆による大量殺戮を肯定されているようで不快でしかないです😰(その欺瞞性はしっかり描かれてましたね)

オッペンハイマーが、原爆の大量殺戮を知った後に、幻覚(悪夢、白昼夢)に悩まされている描写がありますが、はっきり言えば、アメリカ人観客に忖度して描いている気がしました。

原爆の恐ろしさを描き切ろうとしていない…

もしや描くのを断念したのでしょうか?あまりに惨い描写になるので…

アメリカ自身が、今も"原爆"の捉え方に悩んでいて、そんなアメリカの"迷い"が、本作の限界なのかもしれません。

そういったところが、アメリカ人(だけではないでしょうが)に向けての、核兵器を考える映画と感じてしまった所以です。

どちらにせよ、戦争や核兵器が肯定される"理由"など、絶対にありません‼️

本作は誤解がないようにお伝えすれば、オッペンハイマーや核兵器を肯定も否定もせず、観客に「核兵器」について考えを委ねる描き方をしているように感じました。

私のように、オッペンハイマーを知らない人間にとって、本作を通して「核兵器」を考えるきっかけになったわけですから、アカデミー賞受賞の話題性も後押しして大ヒットしてほしいです。

緻密な映像と迫力の音響と、時間軸を駆使した脚本と豪華キャストで描く映画世界は随一のもの。

みなさんはどう感じましたか?

核抑止論(核兵器の存在が戦争を防止する)という考え方が今もありますし、昔に「ジョン・ウェインはなぜ死んだか」(広瀬隆 著)といった本を読んだことがあるのですが、ネバダ州の核実験と近くで撮影していたハリウッド俳優の死因の"因果関係"があると調べた諸説もあります。

核兵器がある世界は、決して後戻りができない大量殺戮と長く後遺症を残してしまう世界を作り出します。

常にその脅威を感じて、生きていかねばならない世界です。

できれば、被爆国の日本だからこそ"伝えられること"を、世界に表現してほしいのですが、改めて『ゴジラ』以外にはどうなんでしょうか?

僕は子供の頃に『はだしのゲン』(1983)を見て、かなりのトラウマになりましたが、これほど原爆の恐ろしさを教えてくれた作品を僕は知りません。
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